WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)準決勝で日本がアメリカに敗れた22日、私は京セラドーム大阪へオリックス-広島のオープン戦を取材に行っていた。このとき、両チームの関係者が異口同音に指摘していたのが、アメリカの先発投手タナー・ロアーク(ワシントン・ナショナルズ)をはじめとするメジャーリーガーのボールの威力である。
ある広島のコーチは、周囲の記者やチーム関係者に興奮気味にこうまくし立てた。
「156㎞のツーシームだよ、ツーシーム。真っ直ぐじゃなくツーシームなんだから。日本で一番速いぐらいのスピードでグオーッ! と来た球が手元でギュワンッ! って曲がる。あんな球、日本の野球じゃ見たことないよ。打ったことがないどころか、見たことない。日本の選手で見たことがあるのは、ひとりもいないんじゃないの? いるとしたら、青木(宣親、ヒューストン・アストロズ)ぐらいでしょ? あんなすごい球投げられたら勝負にならない。日本が勝てるわけないよ」
実際、準決勝での日本の得点は、アメリカの2番手ネイト・ジョーンズ(シカゴ・ホワイトソックス)の158㎞直球をたたいた菊池涼介(広島)のソロ本塁打のみ。これを含めても安打数は僅か4本で、1-2という得点差以上に力の差を見せつけられた。そのアメリカは決勝でも、前回覇者のプエルトリコを8-0と圧倒して初優勝。現役バリバリの大リーガーをそろえた国を向こうに回し、世界一を奪還することがいかに至難の業か、日本球界の誰もが痛感したはずだ。
そうした厳しい状況の中、日本代表を率いた小久保裕紀監督は十分に健闘したと言っていい。東京ドームでの1次、2次ラウンドでは疑問の残る采配も目についたものの、監督はおろか指導者経験すらないままに日本代表の指揮官に就任、チームを準決勝まで導いた度胸と手腕は評価されて然るべきだろう。