これは小平にも言える。「気持ちよく氷を捉えられている」という小平の言葉はかかと荷重で、体重が氷面に伝わり、地面反力を推進力に使えていることの証左である。しっかり氷を捉えられているということは、従来より、少ない力でスピードを得られているということであり、後半にスタミナを温存し、失速のない、粘り強い滑りを実現した。これが、連勝を続ける大きな要因だ。
図6を見て欲しい。
ブレードが氷に触れる着氷時から、離れる離氷時にかけてどのくらい地面反力(プッシュオフ力)を得ているかのグラフである。一流選手は黄線、通常選手は緑線、初心者は赤線であるが、一流選手は着氷時にも大きな反力を得ていることがわかる。小平はこの着氷時につま先荷重だったために、ブレーキがかかり、反力を失っていたというわけだ。
精神面も安定 課題はピーキング
後半もばてず、失速しない滑りは大きな自信となり、それが安定した滑りにつながる。小平は今、好循環の中にある。これまで苦手とされた1000mで世界記録を樹立したのも、後半にばてない滑りができるという自信から生まれたものだ。
平昌五輪での最大ライバルは、五輪2連覇中の地元・韓国の李相花。28歳。身長165cm、体重62kg。身長165cm、体重61kgの小平と体格はほぼ同じ。しかし、2013年にソルトレイクシティー500mで記録した36秒36の世界最高は、いまだ破られていない。
李相花は、1月12日に韓国内の大会に出場し、500mは38秒21の平凡のタイムだったが、「細かな部分を修正すれば、五輪で勝算はある」と語っている。不気味な存在であることは間違いない。
今季の小平は、その李相花の言動に左右されない。李相花を口にすることもないほどだ。あくまで、ライバル、敵は自分にありということなのかもしれない。過去の2つの五輪は、期待に応えなくてはならないというプレッシャーが、体を縛り失速した。あくまで、「日々自分超え」の自然体だ。
平昌五輪はまず、好調の1000mの決勝が2月14日に行われる。ここで好成績を残し、18日の500mにつなげたいところだ。12日の1500mに出場する後輩の高木美帆(23、日体大助手)の活躍も刺激となるだろう。今季のW杯では得意の1500mは4戦全勝。3000mでも日本勢初の優勝をものにしている。高木のメダルで勢いづく可能性は大きい。小平は現在、けがもなく、大きな死角はない。この日に向けて、コンディションを最高潮に持っていけるか。ピーキングがカギを握っている。その先に、3度目の正直の栄冠が待っている。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。