今回の地震で一番心を寄せてくれた国は「日本」
実際、台北のわたしのところにも、安否確認のご連絡を沢山いただいたのは有難いというほかないが、逆に言えば台湾全体が被災地のように認識されているなか、花蓮の状況は一層想像しづらいに違いない。しかし現地の人とSNSとの連動で日台の連携がすぐさま取られたおかげで、現状認識への理解は急速に進んだように見受けられる。
テルマエ・ロマエなどのヒット作で台湾でも人気の高い俳優の阿部寛氏が1000万円の寄付を申し出たことは、台湾ですぐさま話題となったし(台湾のフェイスブック上では阿部氏の男前ぶりを評し「我的先生太大方了(うちの夫は気前良すぎ)」という言い回しで褒め称えられた)、安倍首相の毛筆によるメッセージ「台湾加油」は、「頑張れ」という意味の中文(台湾の国語である中国語繁体字)で「加油」と書かれたことが殊さら台湾の方々の感動を呼んだ。また台南在住のラーメン店を経営する日本人男性が、真っ先に花蓮に向かいラーメンの炊き出しを行ったこともニュースで大きく取り上げられた。
民間・芸能界・国家間、様々なレベルで日本人から寄せられた応援が好感し、台湾のシンクタンク「台湾世代智庫」の調べでは、「今回の東部地震のことで一番心を寄せてくれた国はどこか?」との質問に、75パーセントの台湾人が日本と答えている。
主な使用言語が異なりながらも、日本と台湾がお互いに持っている「いま相手がどんなことを必要としているのか理解したい」「理解されている」という気持ち。またどんな表現手段を使えばそれが正しく伝わるのか、という良質で高度なコミュニケーションを介して築かれている現在の日台関係は、世界的にも稀な現象ではないかと思わずにいられない。
私が「タロコ渓谷」の観光をお薦めしない理由
2011年の東日本大震災へ寄せられた台湾の大きな応援から、台南地震や熊本の地震など日台で災害が起こるたびに温かな支援の連鎖反応が起こっている。そこで見られる双方の理解の深まりは、台湾に在住している日本人として本当に嬉しく、これからも永く続いていくことを期待させるものだ。
ひとつ付け加えるならば、確かに「タロコ渓谷」は日本時代より花蓮における有数の観光地には違いないが、今後訪れるのは個人的にお薦めできない。今回の地震で危険性が増したこともあるが、もともと毎年落石による犠牲者が幾人も出ているし、昨年は自転車で訪れた日本人男性も亡くなっている。また、観光客にとっては「一生に一度」かもしれないが、現地のバス運転手や観光ガイドにとって危険の確率はいや増す。高いリスクを承知しながらも、需要があるから仕方なく仕事を受けている現地ガイドが多いのは、心に留めておきたい。
花蓮には他に素晴らしい場所が沢山ある。訪れて楽しく、案内する側も気持ちよく紹介できる花蓮の旅を、いつか実現していただけたらと思う。余震もかなり収まった今、花蓮復興への道のりは始まったばかりだ。
最後に、このたび被災され亡くなった方々に対し、心よりお悔やみを申し上げます。
京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』
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