ガブリエル外相の演説は、米欧関係の改善と発展、欧州自身の強化を主眼にしたものである。その中で、国際的法の支配に基づく自由主義秩序の維持、発展を説き、それに代わるシステムを構築しようとする中国に対し、明確に警戒感を表明している。
従来、欧州、特に大陸欧州は、地理的遠隔さもあって、中国については安全保障上の観点から見るよりも、経済的機会という観点から見る傾向にあった。欧州にとっての安全保障上の脅威は、もっぱらロシアであると認識されてきた。そういうわけで、中国の警戒すべき企てとして、具体的に一帯一路構想を取り上げ、その性質を正確に描写してみせたりしたのには、少し驚きすら覚える。もちろん、演説の内容は歓迎すべきものである。
最近、欧州では、中国の影響力増大への警戒が高まってきているように思われる。例えば、ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)とグローバル公共政策研究所は2月1日付で‘Authoritarian advance: Responding to China’s Growing Political Influence in Europe’と題するレポートを発表し、中国の政治的影響力と権威主義思想の促進は欧州の価値や利益に対する重大な挑戦となっており、中長期的にはロシアの影響力より大きくなり得る、と警告している。また、同報告書は、EUや欧州諸国のエリートたちが、欧州や近隣諸国の利益や価値に反するような中国のレトリックや利益に迎合することにも、懸念を示している。
1月31日から2月2日にかけてのメイ英首相の訪中でも、同首相は、一帯一路構想については協力することで合意しつつも、「国際的基準を満たすように」との注文を付けている。
欧州における対中警戒がどれほど本物であるのか、今後、一帯一路やAIIBなどへの欧州側の具体的な対応ぶりが注目される。
なお、日本の河野外相も、同じくミュンヘン安保会議で、南シナ海・東シナ海を例に「多くの現状変更の試み」を指摘し、アジア、アフリカ、中東におけるインフラ投資について「透明性や財政的健全性、被援助国の経済を全く考慮しないインフラプロジェクトが数多くあり、このようなインフラ投資を通じて操られることのないように注意しなければなりません」と述べ、中国の行動に注意を喚起するとともに、民主主義、法の支配、人権を守ることの重要性を説いている。こうした考え方を、西側諸国は折に触れて表明、共有していく必要がある。
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