2024年12月22日(日)

この熱き人々

2018年4月23日

マホガニーバイクへの挑戦

 佐野が夢に向かって着々と歩みを続けていく一方、木場から新木場への移転を機に、肝心の造船の世界のほうはどんどん光を失いつつあった。

 「マグロ船が鉄の船に取って代わられて、うちではこの近辺でアサリや海苔を採る和船を造っていたけど、周辺はどんどん埋め立てられてね。東京湾は浅くて大きな船が入れないから、材木を沖で落として筏(いかだ)に組んで旧木場まで引っ張っていくタグボートを造ってしのいでいたけど、新木場移転でそれも必要なくなる。何か考えなければ続けられない」

 佐野は、生き延びるには海外に販路を見出すしかないと判断し、オランダの王立造船所で勉強を兼ねて働くことにしたが、その半ばでバブル崩壊に見舞われた。日本では大変なことになっているというSOSを受けて帰国。

 「不況で船の注文をしていた客はキャンセル。俺の技術があれば何とかならぁと思っていたけど、甘かったですね。大手造船所やメーカーに履歴書を持って行ってもハナもひっかけてもらえなかった」

 船を造りたいという思いも、懸命に蓄えてきた木造船の造船技術も行き場を失い、伝手(つて)を頼って得た仕事先でドラマのセットや家具を造り、国内のボートショーでは家具を展示して売る悶々とした日々が続いた。

 そんなある日、佐野の船に感動した人から、日本の船の歴史を残すためにも造ってほしいというオファーがあり、再び船の世界に復帰。かつてキャンセルした人からの注文も少しは戻ってきてようやく希望がつながったと思った途端、今度はリーマンショック。再びの不況に見舞われたことで、船を造る道は閉ざされ、海上から陸上を走る自転車へと完全にシフトすることを余儀なくされたまま現在に至っている。

 しかし、船と自転車では大きな隔たりがあるような印象をつい受けてしまう。強度は?   耐久性は? 初めてのものには、さまざまな疑問が投げかけられる。

軽快に走るマホガニー製自転車

 「最初は雨に濡れて大丈夫かなんて聞かれました。何言ってんだかねえ。木造船は水に浸かっているのが商売だろうよ。木の優れたところは知り尽くしてますから、木工技術、造船技術を生かして軽くて丈夫で乗りやすい自転車を造ってやろうじゃないかという心意気で始めたけど、試作品を造ったら9キロ。そこから7キロにするのに苦労しましたね」

 7キロのマホガニー製の自転車は、片手で簡単に持ち上げることができる。軽量化のために、木の中をくり抜いて空洞にしている。

 「パイプと同じです。この構造は全体的に力がかかる場合には強いけど、局部的に押されると弱い。その弱点を補うのが形状剛性。段ボールを思い出せばわかると思うけど、上下は薄い紙だけれど、その間が網状になっているから強い。もっと強くするにはハニカム構造っていって、蜂の巣のような形状にすればつぶれない」


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