初めて小松美羽の作品を目にしたのは昨年。たまたま早く着いた待ち合わせ場所が東京・紀尾井町のギャラリー。突然授かった時間を持て余していたら、その中にあるホールで開かれていたのが小松の個展だった。会場に一歩足を踏み入れた途端、度肝を抜かれた。
テーマは「神獣(しんじゅう)~エリア21~」。何なんだこれは? 大胆にして奇妙。が、近づいて見ると繊細でどこか懐かしい感じがする。グロテスクでおどろおどろしい印象は、見ているうちにユーモラスでキュート、健気でやさしい印象に変わる。細部にいったい何が宿っているのか。妙な動きをする心を抱えていたら、個展初日だったので小松本人が在廊していた。
最大の心の振幅はこの瞬間。作品から、取り付く島もない難しそうな人をイメージしていたのに、無垢で無邪気な少女の雰囲気をまとった若く美しい女性が、取り付きやすい笑顔を浮かべていたのである。
9日間で3万人を超える人が訪れ大成功だった個展から約半年後、銀座の老舗画廊「ホワイトストーンギャラリー」の新館オープニングを飾る小松美羽展が開かれていた。「エネルギー阿(あ)」「エネルギー吽(うん)」などの大作も含め、2日間で作品は完売。いかに求められているアーティストであるかを実感する。2015年には、小松がデザインと絵付けを手掛けた有田焼の一対の狛犬「天地の守護獣」が大英博物館に永久所蔵され、当時31歳という若いアーティストの作品としては異例のこととして世界の注目も浴びている。
1984年生まれ。まだ33歳。小松の独特な作品世界の原点は、どのように培われていったのか。アーティストとして最初に名前が世に出てからわずか7、8年で、すさまじい勢いで世界への階段を駆け上っていくまでに、どんな歴史が刻まれているのか。
自然からのインスピレーション
小松は、故郷が自分にパワーを与えてくれる場所だと繰り返し語っている。故郷は長野県埴科(はにしな)郡坂城町(さかきまち)。
「上田市と千曲(ちくま)市の間の、山と山に囲まれて真ん中に千曲川が流れている小さな町です。5、6歳の頃、何かに興味を惹かれてどんどん遠くに行って道に迷った時とか、山犬のような日本オオカミのような生き物がふと目の前に現れて、後をついていくと家に帰れたりしてね。ある日、神社の狛犬を見た時に『あ、これだ。あの子はここに住んでたんだ』って思いました」