2024年12月22日(日)

この熱き人々

2018年4月23日

ドイツのボートショーに出展し注目を浴びた美しい木造船

 船大工の作業場に船がない……と思ったら、覆われた布の下からマホガニー製の船が姿を現した。

 バイオリンのような、高級家具のような美しさにしばし見とれる。2002年にドイツの国際ボートショーに出展したこの木造船は、軽さと速さと性能のすばらしさが試乗会で大いに注目されヨーロッパの船舶業界で話題になり、さまざまなメディアでも取り上げられたという。

 「ドイツの世界一のボートショーで、さすが佐野は世界最高峰の木造船を造ると言わせたかった。親父(おやじ)の夢でもあったからね。6・5メートルで690キロ。この大きさをカーボンファイバー(炭素繊維)で造ると1トンにはなる。木の船は重いからずっと水に浮かせておくしかないと言われてきたけど、バカ言ってんじゃない。西洋では軽くするために薄い木を何枚も貼ってたけど、そんなのはダメだ。ちょっと船がねじれればすぐ水が漏る。木の持っている特質と形状剛性(けいじょうごうせい)で、軽量化はできるんです。造船ってのは力学と数学のかたまりなんだよ」

 ヨーロッパの度肝を抜いたこの船は、しかしボートショーで売れなかった。

 「欲しい人はいても、木の船はメンテナンスが大事なのにヨーロッパにはメンテナンスができる人がいない。木の釘なんか打ったことないんだから。それができるのは日本だけなんだけどね。でも日本は技術や性能には興味がない。ドイツから戻って日本のボートショーに展示したけど、ほとんどの人は、まあきれい、家具みたいという反応で、写真撮っていくだけだもの」

 どんなに努力しても、どんなにいいものを造っても、外見にしか反応してくれない。興味を持ってくれない人にどうしたら伝えられるか。木造車を造ってボートショーの会場を走りアピールしようと考えたが、木造車は車検に通らない。モーターバイクもダメ。そうなると自転車しかない。船大工の技術を結集して木のロードバイクを造ろうと決心した。

 「船の注文も来なくなったしね。俺の造った船はカーボンファイバーより軽いから、俺の技術で自転車を作れば軽量で木の優れた特質を生かした自転車が作れるはず。目標は7キロ。家内には、バカじゃないの、船大工が自転車作ってどうするのよって言われたけどね。そうでもしなきゃ、興味を持ってもらえない。技術をわかってもらえない。とにかくやるっきゃない」

※曲げやねじりの力に対する変形のしにくさの度合い


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