解体 ロシア外交

2018年3月19日

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 まず、幾つかのインパクトある投票を促すビデオ国営テレビが拡散したことがある。その内容は多様で、投票に行かなければロシアはハイパーインフレに見舞われ、アフリカ人が軍に入ってくるというもの1や、徴兵年齢が60歳まで引き上げられるという内容のビデオで、まともな大統領を選ばないととんでもないことになるというアピールをしているものもある。また、男性が投票に行かないと知るとその男性の元から女性が去るという内容のものもあれば、妊婦がタクシーに乗っている動画で、視聴者が病院に行くのだろうと想像していると実は投票場に行く、というものもあった。

 政府は、国営企業や学校を通じて組織的に投票を促すとともに、様々なレベルで投票促進運動を推進した。たとえば、スーパーの買い物袋、牛乳の容器、レシート、掲示板、テレビなど様々なものに投票の宣伝が描かれた。加えて、当局者が戸別訪問で人々に投票を周知したり、携帯電話に投票を促すメッセージが届いたりもしているという。各地方も投票率を上げるために必死で、ある地方では大統領選挙を住民投票と抱き合わせで行ったり、不在者投票に来た若者にコンサートチケットを配布したり、有権者を連れてきた当局者に現金でボーナスが供与されるという通告が出されたりしたという。また政府は、投票所で有権者が撮影した自撮り写真のうち優秀なものにアイパッドやアイフォンを賞品として出すよう進言しているという。

 このような政権サイドの決死の投票率引き上げ作戦を野党は「ムチとジンジャークッキー作戦」と呼んで揶揄しているというが、投票率が50%ないし55%を下回ればプーチンの正統性に疑念が残ると言われており、当局者は必死であった。

やはり行われた?不正報告2000件

 そして、最終的には以下の8名の候補者が大統領の席を争うことになった([]内は年齢、()内は所属・備考など。五十音順)。なお、票総数の過半数を得票する候補者がいない場合,上位2候補の間で決選投票が行われることとなっている。

ウラジーミル・プーチン[65](無所属・現職大統領)
ウラジーミル・ジリノフスキー[71](極右政党「ロシア自由民主党」党首で、大統領選挙ではおなじみの顔。プーチン体制を支える「体制内野党」と言われてきた)
クセニア・サプチャーク[36](「シヴィック・イニシアティヴ」・著名なテレビ司会者、ジャーナリストで、プーチン批判を展開してきた。プーチンの恩師の娘だが、政権を厳しく批判している。プーチンの娘と遊んでいたなど、過去のプライベートなプーチンについてもよく知る人物)
グリゴリー・ヤブリンスキー[65](リベラル系野党「ヤブロコ」創設者で元党首。ソ連末期の経済改革プログラム「500日計画」作成に際しての実質的な理論指導者)
セルゲイ・バブーリン[59](「ロシア人民同盟」)
パーヴェル・グルジーニン[57](「ロシア連邦共産党」公認候補・モスクワ郊外にあるロシア屈指の大農場「レーニン記念ソフホーズ農場」のディレクター・実業家で汚職廃絶を訴え、反政府活動のために資金援助をしてきた。地方での非公式な調査では、支持率が30%を超えたとも言われ、本選挙の最強のプーチンの対抗馬とも目されてきた)
ボリス・チトフ[57](「ロシア成長党」党首)
マクシム・スライキン[39](「ロシアの共産主義者」候補)

 なお、全ロシア世論調査センター(政府系)2が3月9日に発表した世論調査結果によれば、支持率はプーチンが69%、グルジーニンが7%、ジリノフスキーが5%、サプチャーク氏が2%であった。なお、これら候補者の多くを、単に選挙の正統性を高めるだけの滑稽なピエロ候補者だと見る市民も少なくないという。

 そして、選挙当日は、有権者をバスなどで投票所に大量輸送するケースなどが多くみられ、企業なども、選挙中に度々投票に行ったかを社員に確認するなどしていたという。また多くの投票場で食べ物が無料配布されたり、食料や物品が大幅に値引きされて売られたりという形での、人々を投票に呼び込む策がとられるなど、様々な投票率を高めるためのテコ入れが行われた。

 他方、野党活動家や非政府選挙監視団の「Golos」は、選挙当日に大規模な不正が行われたと主張している。投票場のスタッフが何度も票を投じるなど不正に票が水増しされた様子が多数報告されており、「Golos」は確認しただけで2000件の不正があったとしている。

1:なお、このビデオは人種差別主義などと一部から批判を受けている。
2:ただし政府系であるが故に、その結果は全面的には信用しづらい。ちなみに、政府は1月に、国際的に信頼が厚い独立系世論調査機関「レバダセンター」に対し、3月の大統領選に関する世論調査を禁止した。2012年制定された外国から資金援助を受ける非政府組織(NGO)などを「外国の代理人」に指定し、規制を強化する法律に基づく措置だとしているが、同センターは度々政府から厳しい弾圧を受けてきた。同センターは、2017年12月には大統領選でプーチン氏に投票すると回答したのは53%にとどまるとの調査結果を発表していたことも、政府の警戒心を高めたと思われる。

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