外交も問題山積
また、今後のロシアの外交の展望もかなり厳しい。ロシアが2016年の米国大統領選挙の際に、様々な選挙妨害やドナルド・トランプ氏に有利となる行為を行ったとされるロシアゲート問題はさらに状況が悪化しており、米国はこの3月、同問題では初めて対ロ制裁を発動した。米石油メジャー最大手のエクソンモービル前会長兼最高経営責任者(CEO)としてロシアと国会や北極海の開発でタフな交渉を行い、プーチンからも高い評価を得るなど、ロシアと独自のパイプを持っていたレックス・ティラーソン国務長官が3月13日に解任されたことで、米露関係の改善の糸口はさらに見えなくなった状況だ。
さらに、リトビネンコ暗殺疑惑4で厳しくなっていた英露関係がやっと改善の兆しが見えてきた矢先に、この3月4日にロシアの元スパイ殺害未遂事件が再びロンドンで発生した。ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の元大佐・セルゲイ・スクリパリ(66)と娘のユリア(33)が英南部ソールズベリーにあるショッピングセンターのベンチで意識不明になっているところを発見されたが、ノビチョク剤という神経剤が用いられた模様で、依然重体だという。ノビチョク剤は旧ソ連軍が70-80年代に製造していたが、現在でもロシアで製造可能だとされている。同剤は、娘のユリア氏が事件直前にモスクワに帰っていた折、彼女のアパートに何者かが忍び込んで、スーツケースに神経剤を仕込んだと見られている。そこから、スクリパリ氏への土産やユリア氏の服などに神経剤が染み込み、二日ほどをかけて、徐々に二人の身体を蝕んでいったものと見られている。
スクリパリ氏は英国に寝返ってロシアの情報機関員の身元を英対外情報部(MI6)に情報提供していた罪で、ロシアで禁固13年の有罪判決を受けて2010年に米ロが合意したスパイ交換で釈放され、英国に亡命した経緯を持つ。氏はトランプ氏関係の情報を英国に漏らしていたとも言われており、ロシア当局が厳しい目を向けていたことは明らかだ。なお、同氏の妻、息子も不審死を遂げている。
さらに、3月13日には、英国に亡命していたロシア人元実業家のニコライ・グルシコフ氏(68)がロンドン郊外の自宅で死亡していたのが明らかになったが、死因は絞殺だとされている。グルシコフ氏は、反プーチン路線をとったが故に英国への亡命を余儀なくされたがやはり英国で不審死を遂げていたかつてのロシアの新興財閥ボリス・ベレゾフスキーと近く、彼と共に亡命を余儀なくされていた経緯があった。
英国サイドはこれらの殺害・殺害未遂事件がプーチンの指示によって行われたとし、英露関係は再び緊張関係に陥った。英露は相互に外交官を追放したが、英国に米国、フランス、ドイツが共同歩調をとり、共同の対ロ非難声明を出すにも至っている。
一方、依然としてウクライナ問題、シリア問題もくすぶったままだ。特にシリア問題では、現在も続いているシリア政権側の攻撃の背後にロシアがいるとして、ロシアはシリア和平での役割を果たすどころか、ロシアこそがシリアの不安定化を長期化、深刻化させているとし、ロシアに対する批判は強まる一方だ。
北朝鮮問題でも、ロシアが保持していると思われてきた北朝鮮に対する影響力もうまく発揮できないまま、韓国や米国が北朝鮮と接触を深めていて、ロシアのアジアにおける存在感は明らかに小さくなっている。ユーラシアプロジェクトでも中国に水をあけられているのが実情だろう。
このように外交ではポジティブな要素がなく、ロシアに対する世界の目は厳しくなる一方だ。
「プーチンの次の6年」の行方
このように、ロシアの内政も外交も今後の展望は決して明るくないと言える。プーチンの4期目については、任期の6年を全うできないのではないかという説もある。しかし、魅力的な力強い新指導者が現れない限り、プーチン体制は継続するように思われる。その背景には、ロシア人のみならず旧ソ連の人々が「安定」を強く志向する傾向があるからだ。ソ連解体の混乱を経験した世代は特に、安定を最大の美徳だと考える。そして安定には強い指導力が必要だ。安定を維持するためには、独裁もやむをえない必要悪だという考え方は旧ソ連で広く共有されていると言える。そのような観点からは、やはりプーチンを求める国民の気持ちはかなり強いと思われ、たとえ各地で不満が募っても、体制を打ち崩すまでのエネルギーにはなりづらいと考えられる。
他方で、プーチンの次の6年のその後についても議論が及んでいる。プーチンが後継者を育てるのか、それとも以前にメドベージェフを大統領に担いで自分が首相になったような形で再び院政体制を敷いた後にまた大統領に返り咲くのか、さらには改憲して大統領の3選禁止条項を撤廃してまた大統領に収まるのか、など様々な議論がなされている。しかしプーチン本人が改憲を明確否定していることもあり、後継者問題がこれからの重要課題になるだろう。プーチンがいかに内政、外交の問題を切り抜けながらどのような後継者を育てていくのかが、次期政権を見ていく鍵となるだろう。
4:2006年にロンドンで起きたロシアの元情報将校でプーチンへの激しい批判を繰り広げていたアレクサンドル・リトビネンコ氏の毒殺事件。
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