予想通り、選挙結果はプーチンの圧勝だった。2018年3月18日23時(日本時間、19日午前5時)、プーチンはモスクワ市内で勝利宣言した。結果が全て明らかになるまではまだ時間がかかると思われるが、中央選挙管理委員会による暫定投票率は60%で、当局者は一応の面目を保てた形だ。そして、開票率40%の時点での結果は以下の通りである(同時点での得票率順)。
2. パーヴェル・グルジーニン[13.3%]
3. ウラジーミル・ジリノフスキー [6.3%]
4. クセニア・サプチャーク[1.4%]
5. グリゴリー・ヤブリンスキー[0.8%]
6. マクシム・スライキン/ボリス・チトフ/セルゲイ・バブーリン[0.6%]
*開票率40%段階・中央選挙管理委員会
このようにやはり無風選挙の形で、プーチン大統領の再選が決まった。
高まる国民の不満、「強いロシア」を強調するプーチン
このようにプーチンは予想通り、再選を果たしたが、今後の展望は決して明るいとは言えない。
そもそも、プーチン人気は間違い無く下降気味である。クリミア併合の熱狂が冷めた頃から、国民は西側からの経済制裁や石油価格の下落で明らかに大打撃を受けた経済の低迷で生活レベルの低下を感じ、不満を募らせるようになっていった。ただそのような状況下でも、政権側の「経済の苦境はすべて欧米の陰謀である」というプロパガンダが功を奏したこともあって、プーチン支持率はずっと80%以上を維持してきたが、ここにきて、それでも世界レベルで見れば相当高いとはいえ70%ほどにまで落ちてきた。
地方では工場で給料半減などのひどい仕打ちなどもなされており、各地で住民の反感が高まっているものの、興味深いのは、若者はプーチンその人に問題を感じる傾向も見られる一方、中高年以降は、問題なのはプーチンではなく、プーチンの側近以下、部下たちであると考える傾向がある。そのため、プーチンがこの苦境を知れば必ずや問題を解決してくれると考えるため、反政府的な行動を起こしにくい状況があるのである。
しかし、2017年には長距離トラック運転手による抗議行動に加え、地域的な抗議行動もかなり生じるなど、最近、政権にとっての不安要因がかなり増しているのも事実だ。ナワルヌイ氏の「大統領選挙ボイコット」の呼びかけに賛同して反政府行動に参加した若者も少なくない。反政府行動に参加した者に対する圧力や制裁も様々なレベルで高まっている。たとえば、反政府行動を展開する高校生が様々な妨害を受け、悪い成績をつけられたり、転校を強いられたり、その生徒を擁護した先生も辞職に追い込まれたりするなど、若者に対してすら容赦ない弾圧が及んでいる状況だ。政権もかつてのカラー革命を恐れ、反政府的な動きについてはかなり神経質になっていると考えられる。
そして、国民の不満が高まっていることをプーチンもわかっている。それが3月1日の大統領教書演説の内容によく表れているといえる。そもそも大統領教書演説は12月に行われるのが常だが、今回は大統領選挙を意識し、3月に行われた。明らかに大統領選に際しての公約を宣言する意図があったと思われる3。今回の大統領教書演説は二部で構成され、第一部は経済や社会保障など国民の生活に直結した問題で、第二部はロシアの軍事的発展を高らかと謳う内容であった。これは国民の不満、不安に絶妙に応える内容であったと言える。プーチンは国民の日常生活の改善を強い言葉で約束し、まだ近代的なCG画像なども駆使して、ロシアが米国のミサイル防衛(MD)網を突破する無敵の戦略核兵器を開発したと述べつつ、ロシアの軍事技術がいかに高いかを強調して、米国のフロリダを直接攻撃する映像まで示した。
この演説を受け、国際社会においては、プーチンの軍事力の宣伝は欧米に対する単なるブラフであって、現状からはかけ離れているという見解が圧倒的だが、ロシア人は「強いロシア」を強く求める傾向があり、ロシアが大国であるという意識は、政権のプロパガンダの成功もあり、近年強まっている。プーチンの演説はそのような国民の自尊心を刺激した形である。
それでも、これらの公約が果たされなければ、特に国民の生活に関する不満が改善しなければ、プーチン批判が強まる可能性は否めない。
3:野党からは、大統領教書演説の機会を選挙戦に利用したと激しい批判があった。