2023年2月8日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年3月27日

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 これまで欧州各国は、中国について、その経済的利益にのみ注目してきましたが、中国がユーラシア大陸を席巻するがごとき勢いを見せているのを目障りに感じるようになり、また、習近平の権力集中が明らかになったことで、この論説のような批判が増えてきています。例えば、2月中旬のミュンヘン安全保障会議では、ガブリエル独外相は、中国の一帯一路構想は民主主義と独裁の間の選択を迫るものであり、西側はこの構想に代わるものを提示しなければならない、と述べています。

 習近平が権力の集中・恒久化をはかるにつれて、この論説が示すように、西側では対中警戒心が強くなってくるでしょう。

 他方、世界を席巻するかに見えた中国の勢いにも、潮目の変化が見えることに注目すべきでしょう。「一帯一路」は、インド洋・アフリカ方面ではスリランカ、ジブチ等で中国の進出が目立ちますが、ユーラシアの陸路の方は採算の取れるインフラ案件が少ないです。騒がれたAIIBも、資金調達のための外債発行を未だ行っていません。そして、野放図な海外企業買収も、当局によってブレーキがかけられています。

 そして中国は、国内でも次の問題を抱えています。

 ・習近平は経済オンチであると言われています。彼の理想は集権・指令経済、強制分配の経済であるように見えます。強力な権力は改革ができる、というのは事実ですが、それが過去の社会主義経済への回帰であれば、中国に未来はありません。

 ・中国は、その王朝の伝統の上にソ連型社会主義という集権制をかぶせた国で、ソ連とのアナロジーが一定程度可能です。認可・配分決定権限が少数の者の手に集中すると、その少数の者の殆どは横領・収賄に手を染めてしまうのです。そして、皇帝が主要な利権を独占、エリートはそれに寄生して収賄を恣にしていた中国では、権力に寄生して私利をはかることがDNAに染みついている感があります。

 ・中国の「巨大な国営企業」が脅威であるように言われます。確かに鉄道車両製造国営企業などが海外で大型商談をさらったりする時には、脅威を感じます。しかし、中国やロシアの国営企業の経営者は一つの企業に居つきません。彼らは、国が一つの会社であるかのように、別の国営企業や役所に「昇進」していくので、今いる企業の将来より自分の次のポストの方を気にしているはずです。

 監視社会は可能です。ソ連では路上監視カメラはありませんでしたが、市民一人一人がカメラ、センサーとなって、周囲の動きをKGBに密告していました。そして住宅や車を安くもらえ、腐った野菜でも店にある限りは、市民はソ連体制を心から支持していたのです。しかし「世の中のよいことはなんでも共産党のおかげ」と教えこまれたソ連国民は、1980年代の経済困難で「生活が苦しいのは共産党の連中が横領するせいだ」と思い込み、エリツィンがソ連共産党を一夜で解体した時には、喝采の声をあげたのです。そうならないよう、この論説が言うように「AIで国民の不満を早い段階で吸い上げて対策を講ずる」ことは、理論的には可能ですが、AIがなくとも世論の動向を把握していたソ連は崩壊したのです。データを集めても、それを解析し対策を講ずるところでは人間の恣意が入るので、AIは、犯罪防止・捜査には大きな威力を発揮するでしょうが、独裁を大きく助けるものにはならないでしょう。

  
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