北朝鮮が何を重視しているかのバロメーターとなる金委員長の「現地指導(視察)」を見ても、6回目の核実験を行った後の昨年9月下旬からは軍部隊への現地指導がぱたりと止み、農場や工場への現地指導に集中するようになった。これからは経済建設を重視したいという考えが明確に出ていたということだ。
北朝鮮では制裁に負けない経済建設を目指すということで「自力更生」「自給自足」「自強力」といった用語が多用される。ここ数年は実際にかなり高い成長率を記録したと見られているが、やはり制裁を受けたままでの経済成長には限界がある。そこで経済制裁解除への道筋をつけるため、米韓両国への対話攻勢に出てきたようだ。
経済面では韓国との経済協力を必要とするが、その前提となる制裁の解除や緩和には米国から理解を得る必要がある。それに米国からは体制の安全の保証を取り付ける必要もある。南北関係と米朝関係は経済と非核化という別々の課題を掲げながら、密接にリンクしているのである。
予定通りに進んだ核・ミサイル開発
2016年夏に韓国へ亡命した北朝鮮の元駐英公使、太永浩氏が同年末に韓国国会や記者会見で行った証言も興味深いものだ。太氏の証言はおおむね以下のようなものだった。
北朝鮮は2017年末までに核開発を終える計画を立てており、それまでに追加核実験を行う。それに対応できるよう準備しておくようにという指示が平壌の外務省から在外公館に来ていた。これは、2016年5月の朝鮮労働党大会で金委員長が打ち出した方針で、米国の大統領選(2016年11月)と韓国の大統領選(朴槿恵前大統領の罷免がなければ2017年12月だった)の期間に核開発を進めてしまい、米韓の新政権を相手に有利な立場で交渉を始めようという計算だ。
脱北者の証言には誇張されたものが少なくない。太氏がこの後に行った証言の中にも、他の証言と突き合わせると疑問を抱かざるをえないものがある。この証言に対しても「核実験の予定などという機密情報をわざわざ在外公館に事前に教えるだろうか」という疑念が持たれ、ニュースで取り上げられはしたものの大きな扱いにはならなかった。
だが現時点で改めて検討すると、この証言に対する評価は変わってくる。
北朝鮮は2016年1月に4回目の核実験を強行し、「核抑止力を質量ともに絶えず強化していく」という政府声明を発表した。これを契機に北朝鮮は核・ミサイル開発の速度を急速に上げた。同年9月に5回目、一年後の昨年9月に6回目の核実験を強行した。ミサイル発射も、防衛省によると2016年に15回23発、昨年は14回17発に上った。昨年最後のミサイル発射となったのが11月29日のICBM「火星15」であり、北朝鮮はこの時に「核武力完成」という政府声明を出した。
2016年1月の政府声明で開発加速を宣言し、2017年11月の政府声明で完成を宣言したということだ。太氏の証言は、この方針が2016年5月の党大会で明らかにされ、それに従った在外公館への指示を亡命直前に読んだということになる。