補講 北朝鮮入門

2018年3月22日

»著者プロフィール
閉じる

礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学准教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

[執筆記事]
著者
閉じる

澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

「常識」超えるリーダー同士の対決

 今回の対話局面が北朝鮮の思惑通りの展開で運んでいるとしても、それは北朝鮮の一方的な勝利を意味するものではない。現在の北朝鮮の目標は、韓国に侵攻しての武力統一ではなく、核保有を単に誇示することでもない。北朝鮮の現状は、現体制の「生き残り」を最大の目標にしなければならないというものであり、目指すは韓国との「平和共存」だ。若い金委員長としては特に、数十年後も安泰だと思える環境を作らねばならない。北朝鮮だって、米国との交渉をなんとかまとめたいと考えているのだ。

 北朝鮮はこれまで「朝鮮半島の非核化」を掲げてきた。米国にも核放棄と在韓米軍の撤収を求めるという考え方だが、それが現実離れした要求であることは北朝鮮も理解しているはずだ。だから実際には平和協定の締結や国交正常化を米国に求めつつ、米本土を攻撃できるICBMの放棄には応じるという取引を考えていたように思われる。

 ただ、金正日国防委員長時代のように交渉カードを小出しにする「サラミ戦術」を取った場合、トランプ大統領を怒らせて情勢を悪化させるリスクがある。交渉相手の性格を徹底的に研究する北朝鮮がそれを分からないはずがない。しかも、「核武力完成」を宣言して臨む米国との交渉は、いわば「最後の大勝負」である。それだけに金委員長が、一気に妥結を図ろうと踏み込んだ提案をしてくる可能性もあるだろう。

 その際には、北朝鮮が完全な非核化に応じることなどありえないという従来の常識を疑う必要が出てくるかもしれない。

 北朝鮮はこれまで核兵器こそが自らを守ると信じて多大なコストと時間を投じてきたが、現実には核兵器がなくても日本と韓国に大きな被害を与えることはできる。核兵器ほどの威力はなくても、日韓が政治的に耐えられない程度の被害を与えることは難しくない。日韓両国を人質にすることで対米抑止力を持てるなら、それで十分だという考えに金委員長が至る可能性は否定できない。

 金委員長とトランプ大統領は過去の常識にとらわれない。それがプラスに出るか、マイナスに出るかは分からないが、場合によっては大きなパラダイム・シフトにつながるだろう。史上初の米朝首脳会談は、これまで以上に予断を許さない展開になりそうだ。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る