核開発と並行して交渉の体制を整備
北朝鮮は並行して外交交渉のための準備を進めた。
昨年4月の最高人民会議(国会に相当)では19年ぶりに外交委員会が復活した。委員長に起用されたのは、党の国際部門を統括する李洙墉(リ・スヨン)党副委員長だ。委員には、1990年代から対米交渉に携わってきた金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務次官や対韓国窓口機関である祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長らが入った。
李善権氏は平昌五輪開会式の際、金委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏とともに韓国を訪問。青瓦台(韓国大統領府)での文大統領との会談にも同席している。
さらに10月の党人事では李容浩(リ・ヨンホ)外相が政治局員に昇格し、与正氏も政治局候補委員に抜てきされた。今年に入ってからは、金次官とともに対米交渉を担当してきた崔善姫(チェ・ソニ)北米局長の次官昇格が判明した。崔氏はこの間も米政府の元当局者らと接触を続けてきた人物だ。
米韓との交渉担当者を重用する一連の人事は、外交交渉の本格化に備えたものであろう。与正氏は平昌五輪の際に金委員長の特使という役目を担ったが、与正氏を対外交渉でのキーパーソンとして活用する方針も昨年のうちから決まっていたのかもしれない。
太氏の証言と外交重視の人事を合わせて考えれば、今回の対話局面はすでに一昨年から計画されていたと見ることができる。さらに、より大きな構図で見れば5年前に「並進路線」が打ち出された時から方向性は決まっていたのではないか。決して「苦し紛れ」で対話に出てきたわけではなさそうだ。
北朝鮮の非核化に関する約束は新味なし
韓国と北朝鮮が首脳会談開催に合意した際の内容を見ても、非核化に関する北朝鮮側の主張に大きな変化があったわけではない。むしろ今回の変化は、別の部分にある。
北朝鮮の側では、これまで非核化の問題では完全に無視してきた韓国に米国との仲介役を担わせた点だ。金委員長は今回、朝鮮半島問題の当事者として「運転席」に座りたいと語ってきた文在寅政権に花を持たせた。対話の重要性を一貫して訴え、金委員長の面子をつぶさないようにしてきた文政権を厚遇することで、米国や日本に対話の重要性を示したことになる。一方で中国に対しては、朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて名指し批判したり、最近では「大国主義」だという強い批判をしたりと反発を強めている。
米国側の変化も大きい。北朝鮮が表明した「具体的な措置」と呼べるものは、核実験やミサイル発射の一時凍結程度にすぎない。それにもかかわらずトランプ大統領がいきなり首脳会談に応じたことは、北朝鮮にとっても驚きだったはずだ。
ただ北朝鮮としては、「ディール(取引)」を好むトランプ大統領の性格を分析し尽くし、ある程度の勝算を見込んでいるのは間違いない。核を保有してこそ米国と対等に取引できると考えてきた北朝鮮にとって、まさにそうした状況が成り立ちつつあるといえるのだろう。