2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月11日

 孔子学院については、単なるカルチャー・スクールではなく、中国共産党の工作活動の拠点となっているということは、かねてから指摘されていた。例えば、2014年6月14日付のワシントン・ポスト紙の社説は、米国の大学が中国に管理されつつあることを、孔子学院を挙げながら警告していた。特に、孔子学院は、他の外国の文化交流機関である英国のブリチッシュ・カウンシルやドイツのゲーテ・インスティツート等と異なり、大学内に設置されていることからも、大学の自治を侵すリスクがあるとする。米国大学教授協会は、同じ2014年に、「孔子学院は中国政府の出先として機能しており、学問の自由を無視することが認められている。」とし、100近い米国の大学に対し、孔子学院との関係を再検討するよう促した。

 それから4年、今回、米国議会が新たな措置を講じることになった。この件は、2018年3月23日付の産経新聞の一面でも大きく取り上げられ、翌24日付の同紙「産経抄」でも触れられた。それによると、孔子学院は既に世界146か国・地域に、525か所設置されていて、小規模な孔子教室は1113か所あると言う。日本には孔子学院が14か所、孔子教室が8か所あり、そのうち最初のものは、13年前の2005年(平成17年)に立命館大学内に設置されたそうだ。この間、中国は経済成長とともに軍拡も続け、中国国内で反日暴動があったり、尖閣諸島周辺は今や常に緊張状態にあったりする。中国の資金に頼りすぎると、大学等は、もはや何も抵抗できなくなり、真理の探求を行なう学問の場がその目的を失いかねない。そんな危機感から出てきたのが、今回の米国議会の動きだろう。翻って、日本では、国会や大手メディアで、大学への「政治介入」が議論されることがあっても、「外国の政治介入」への危機感は概して薄い。時には、孔子学院や科学技術の保護等がもっと議論されても良いのかもしれない。日米同盟の様々な分野での連携、協力も欠かせない。

 3月23日付の産経新聞には、もう一つ興味深いことが書かれていた。米国の「外国代理人登録法は1938年、ナチス・ドイツの米国でのロビー活動の封じ込めを目的に、制定された。」そうだ。そこで注意しなければならないのが、もう一つの孔子、「孔子平和賞」である。これは、2010年、ノーベル平和賞に中国の民主化・人権活動家の劉暁波氏が選出された直後に創設された。すなわち、ノーベル平和賞に対抗して、中国が独自に別の人を表彰するために設立されたものである。受賞者には、連戦(台湾、2010年)、プーチン(ロシア、2011年)、アナン(元国連事務総長、2012年)、カストロ(キューバ、2014年)、フン・セン(カンボジア、2017年)等がいる。この孔子平和賞で類推されるのが、ナチス・ドイツが、同じくノーベル賞に対抗して設立した「ドイツ芸術科学国家賞」である。これも、獄中で言論の自由を訴えたドイツ人、カール・フォン・オシエツキーがノーベル平和賞に選ばれた1935年に設立された(ウィキペディア参照)。第二次世界大戦後の冷戦中には、ソ連(現ロシア)が、やはりノーベル平和賞に対抗して、「スターリン平和賞」(後に「レーニン平和賞」)を1949年に設立した例がある。

 そういう意味からも、孔子学院等の設立には慎重な姿勢が重要だろう。場合によっては、シカゴ大学やペンシルバニア州立大学のように、孔子学院を閉鎖して、自由な学問の場を維持することも必要であろう。

  
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