3月5日から16日間の日程で開催された、中国の第13期全国人民代表大会(全人代)では、3年ぶりの規模となる国防費の増額や憲法改正により、習近平が目指す軍の強大化がますます明確となった。
李克強首相は、3月5日の政府活動報告で、2018年度の国内総生産(GDP)の経済成長率目標を昨年と同じ6.5%とした。同日公表の2018年度の予算案では、国防予算の増加率は8.1%とされたが、これは、2018年度の経済成長率目標や昨年の成長実績(7%)を上回るものであり、3年ぶりの伸び幅となる。
中国政府の公表値では、2018年度予算における国防予算は、総額1兆1069億5100万元、日本円では約18兆4000億円となり、米国に次いで世界第2位となるが、米国防総省はそれより25%程度多いのではないかと見積もっている。
中国の国防費については透明性の欠如がしばしば指摘される。これに対し、例えば、中国国防部は「中国の国防費は透明で、隠された部分はない」とする中国人民解放軍軍事科学院の少将(前回の国防白書起案にかかわった人物)による見解を紹介する記事(‘China's defense budget increase mainly to develop new weapons’, March 6, 2018)を掲載するなどしているが、これほど中国軍が強大化してしまうと、透明性について論ずることは意味が薄いように思われる。何よりも、中国の意図が重要である。この点、今回の憲法改正に「中華民族の偉大な復興」が盛り込まれたことは大きな意味を持つ。この概念は、2012年に「中国の夢」の一環として習近平が提唱し始めたものであり、昨年10月の第19回共産党大会では党規約に盛り込まれた。「中華民族の偉大な復興」というのは、要するに、アヘン戦争以来の屈辱を晴らし、世界第一の大国になるということである。
「中華民族の偉大な復興」のためには、当然、軍の強化が不可欠である。第19回党大会で習近平は、軍の発展は国家の優先事項であり、2035年までに近代化を完成させ、2049年までに「世界一流」の軍隊にする、と明言している。3月8日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙社説‘Xi Jinping’s Military Might’は、「中国は、兵員数を削減し、洗練された武器に資金を投じている。2015 年以来、人民解放軍は30万人を削減した。人海戦術に頼るかわりに、戦場で用いるAI の開発で米国と競っている」と、近年の中国の軍事力近代化を描写し、警告を発している。
今回の憲法改正では、国家主席および同副主席の任期制限(5年2期、計10年まで)を撤廃し、習近平の「終身国家主席」への道を開いたとして注目された。これは、憲法を習近平による独裁のための道具にするということを意味する。そして、その憲法に忠誠を誓うよう求めている。軍についても、習近平は「すべての軍人が憲法を擁護し、忠実な支持者となり、積極的に遵守する」ことを求めた(‘Xi calls for deepened military-civilian integration’, March 12, 2018)。これまでも、反腐敗運動を名目として過去6年の間に最高位の将軍たちを16人粛清し、自らへの忠誠を誓う者に交代させるとともに、軍人たちの個人的な「なわばり」と化していた軍区制度を戦区制度に改めるなど、軍の掌握に努めてきた。今後、憲法を盾に、ますます習近平個人への忠誠を強めさせるものと思われる。習近平が旗を振って、ますます「中華民族の偉大な復興」が進められることになろう。まずは、台湾への威圧、南シナ海・東シナ海への海洋進出が強化されると予測される。