2024年11月13日(水)

Wedge REPORT

2011年3月4日

王朝時代を含め、「中央集権か、地方分権か」で大きく揺れ動いてきた中国。
現在、再集権化を指向するも、既得権の喪失を恐れた地方政府の暴走が顕著に。
歴史のジレンマに直面する中国。新たなチャイナ・リスクが出始めている。

 胡錦濤政権の任期が満了する2012年秋が近づくなか、ポスト胡錦濤世代の中国最高指導部の中核と目される習近平国家副主席は後継者としての地位を着々と固めている。「人治の国」ゆえに、指導者個人への関心が高くなることは当然である。だが、北京の政治動向ばかり見ていても、中国理解はバランスのとれたものにはなりがたい。一方、地方は地方であまりにも多様で、一つ一つ事情が異なる。特定の地方に注意を払いすぎると、今度は「木を見て森を見ない」ことになりかねない。

 では、今日の中国をバランスよく理解するにはどうすればよいのだろうか。巨大国家の運営という点においては、支配者は今も昔も相似た課題を抱えてきた。そこで、まず歴史を踏まえつつ、中央と地方の双方への目配りが可能な中央地方関係に着眼する、二段構えの工夫で臨んでみたい。

 さて、中国の長い歴史のなかで王朝は統一と分裂を繰り返してきた。カリスマ的指導者の下、国土が統一されると、中国は大きく、国家は強くなければならないという国家観から、広大な国土を強力な中央集権型システムで統治する公式制度が打ちたてられるが、地方の統制は難しく、実際には、中央集権の程度は時代ごとに伸縮してきた。

 中華人民共和国についても、歴史的な中央集権─地方分権のサイクルがやはり確認される。建国以来1970年代末までの毛沢東時代には、歴代王朝と異なり、社会主義的近代国家の建設という目標を掲げ、急速な経済近代化のため中央集権型計画経済システムを採用した。地方統治の面では、伝統的には県レベルまでの浅い統治システムであったところを、中国史上初めて郷レベルにまで政府を設置した。

 続く鄧小平時代には「改革開放」と銘打って、地方分権化と市場化改革に着手した。社会主義の実現は長期目標として棚上げしつつも共産党一党独裁を維持し、経済開発を優先する、いわゆる「開発独裁」に落ち着いた。ただし、今日の中国の隆盛をもたらした経済発展は、鄧小平時代以降の貿易や外資誘致、中央政府の賢明な政策の成果という以上に、地方政府が牽引した、「地方政府主導型」の経済発展であったという見方が有力視されている。

 鄧小平時代には地方政府に行財政面での幅広い権限委譲というアメを与える一方で、管轄する地方の経済パフォーマンス(GDP成長率)を地方政府指導部の人事考課の基準とするムチにより、地方政府は激しい成長競争に駆り立てられてきたのである。

 財政面では地方政府の歳入増に有利な「財政請負制」が導入された。「財政請負制」とは、地方で徴収される国家財政収入のうち一定部分(定額または定率)を一定期間中央に上納し、残りは地方政府が自由に使えるとする取り決めである。地元経済が成長すれば歳入も増加し、自由な資金も増加するわけであるから、地方政府は分権化で得た権限を活用して管轄地区の発展に邁進し、増加した歳入を再投資しさらなる経済振興に努めた。


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