2024年6月20日(木)

WEDGE REPORT

2018年4月20日

「求道者・マンデラ」と「エンターテイナー・グスマン」

 グスマンの特徴の一つにその天性の明るさがある。元々、あまり物事の細部にはこだわらない性格だった。しかしそれに加え、人から愛されるという経験が、ジャングルと獄中の生活にも拘らずグスマンを明るい人物にした。グスマンが国中を行脚して回るとき、行く先々で笑いが絶えることがない。グスマンは、時にはおどけ、時には軽妙な話術で群がった人々を笑いの渦に引き込む。

 グスマンが行う対話集会は5,6時間にも及ぶ長いものだが、参加者はそこで時間の長さを意識しない。初めから終わりまで笑いの渦だからだ。グスマンにはもって生まれたエンターテイナーの才がある。これは政治家にとり極めて重要な資質である。エンターテイナーの才、つまり、観衆を虜にし、その心をわしづかみにして自らの支持者に仕立て上げる才能。しかし、エンターテイナーはコメディアンではない。笑いは一つの政治目的があってのことである。それは何か。

 マンデラは、求道者の如くであった。獄中で、苦難の末に一つの真理をつかみ取った。それが「赦しと和解」だった。マンデラは国民に、そのことを自らの背中で語った。

 グスマンには、そういう深刻さや孤高の響きといったものはない。人はグスマンが繰り出す笑いの中に、いつしかわだかまりが解けていく自分の心を見るのであり、グスマンの言うことに素直に耳を傾ける自分を見るのである。グスマンが「赦しと和解」を説くとき、そこに説教じみたものはみじんもない。人々は笑いの中に、「グスマンがそうまで言うならしょうがない、赦してやるしかない」という心境になっていく。「求道者・マンデラ」に対し「エンターテイナー・グスマン」が持つ政治上の意味合いはそこにある。

 8年のグスマンによる統治を終え2017年、東ティモールは、アラウージョ首相を挟み再びアルカティリ首相を迎えた。しかしその治世は長く続かず2018年5月、再度の総選挙が行われる。

 今、東ティモールに内戦のにおいはない。グスマン首相の8年間、国内は安定し人々は統合された。心の中のわだかまりが消える日は、おそらく永遠に来ないにしても、少なくとも政治の上では平穏が再び日常に戻ってきた。

  
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