会場に足を踏み入れると、最初期の女性作家、エリザベト=ソフィ・シェロンの《自画像》が迎えてくれる。三菱一号美術館が持つ、モダンな明治期の雰囲気のマントルピースと非常にマッチしている。当時のフランス女性画家たちは「肖像画」を描くことが中心であった。当時の貴族の間で、自らの姿を美しく描いてくれる「肖像画」は人気があった。画家の自画像は自らのイメージを広げると共に、「これだけ上手く描けますよ」というサンプルの役割も果たしたのだった。
続くフランス王妃、マリー・レクジンスカによる《ヴェルサイユ宮殿、中国風居室の彩色パネル》は王妃の教養としての面が表れている作品である。主題である「中国」よりも、王妃が金を取るプロの仕事としてではなく、自己の趣味で描いたことが重要なのだ。1761~8年まで飾られたこの作品は今回、宮殿内の配置を尊重して展示されている。世界初公開というのだから見逃せない。
ヴィジェのライバルも登場
「自画像」、「教養」を経て、「王立絵画彫刻アカデミーの女性作家」のセクションとなる。ここのみどころを、安井氏に聞いた。「アンヌ・ヴァレイエ=コステルは同じ18世紀の静物画家シャルダンを想い起こさせますが、《ぶどうの籠》を見ると細密な描写に魅力があります。アデライード・ラビーユ=ギアールはヴィジェのライバルでもあり、重要な作家です。ギアールとヴィジェは1783年の同じ日にアカデミーの正会員となりました。ヴィジェはアントワネットの庇護を受けましたので革命後は亡命を余儀なくされましたが、ギアールは革命を支持し、教育面の業績により追放されなかったのが二人の違いです。コステルを含む三人は女神に見立てられましたが、アカデミーで美の争いを繰り広げたのです」。確かにコステル、ギアール、ヴィジェは、これまで見てきた作品群に比べて、優れた技術を持っている。これは努力の賜物であろうが、才能というべきか。マリー=ガブリエル・カペの《自画像》も逸品だ。