“信用販売”の外交政策
ワシントン・ポストは「トランプ外交」の特徴を“信用販売”に似た近視眼的な政策と分析している。「購入するが、支払いはツケ」というもの。つまり、トランプ氏は国内向けに派手な外交政策をぶち上げるが、問題が多く、長期的には禍根を残しかねないものということだ。
エルサレムへの大使館移転を例に取れば、11月の中間選挙に向けて、移転を主張する大票田のキリスト教徒福音派の支持を獲得することができるかもしれないが、中東和平交渉は暗礁に乗り上げたまま先送り。トランプ政権が交代するまで全く動かない可能性すらある。
大使館移転だけではない。離脱を発表したばかりのイラン核合意や温暖化防止のパリ協定脱退なども同じやり方。国内向けにアピールしたものの、その後、問題をどう解決していくのかの長期的な展望がない。ぐちゃぐちゃにして放置し、結局のところ次期政権に先送りする公算が高い。心配なのはこうした外交手法が北朝鮮との交渉でも同じようにならないか、ということだ。
トランプ氏は大使館移転で、本来は10億ドル(約1100億円)かかる費用を40万ドルに削減した、と自画自賛した。しかしこれは、エルサレムに新しい大使館を建設するのではなく、領事館を改修して暫定的に大使館としたためで、セキュリティが万全な大使館建設にはやはり10憶ドルは必要になる。しかも、新大使館完成までには6年以上かかるとされ、トランプ氏が仮に再選されたとしても任期中にはできない。
ハマスはパレスチナ人にインティファーダ(蜂起)を呼び掛け、軍事部門のカッセム旅団がイスラエルとの本格戦争を準備し始めたと伝えられており、ガザ戦争の再発もあり得るかもしれない。しかし、こうした緊張した事態に、サウジアラビアやエジプトなどのアラブ主要国はトランプ政権を恐れて「アラブの大義」を忘れたかのように見える。
パレスチナ人への連帯を示し、イスラエルへの抗議行動が広がっているのは表向きトルコだけだ。だが、「アラブ世界の底辺では米国とイスラエルの横暴に対する反発と憎悪が急速に広がっている。トランプはいつか、しっぺ返しを食らうだろう。ツケの支払いは予想以上に大きい」(ベイルート筋)との声も強い。大使館移転は中東の「パンドラの箱」を本当に開けてしまったように思う。
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