2024年12月23日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年5月19日

 香港を拠点に発行されている週刊誌『亞洲週刊』(4月29日号)が、発刊30周年を祝って特集を組んでいる。

「天安門事件」の1年半前に創刊

 創刊されたのは1987年12月。中国が改革・開放に踏み切った1978年末から9年後で、天安門事件の1年半前に当たる。台湾では蔣介石の死を承けて政権に就いた長男の蔣経国が集会・結社・報道の自由などを軸とする一連の政治改革を進める一方、中国大陸への探親(里帰り)旅行を許可するなどの民主化政策に大きな一歩を踏み出している。また香港では返還に関する中英交渉が進むなど、「両岸三地」の大変動が始まった頃である。日本はバブル景気の絶頂に向って突き進み、国を挙げて浮かれていた頃ではなかったかと記憶する。

 同誌は武侠小説第一人者の作家・金庸(本名は査良鏞)が経営する中立系有力紙の『明報』傘下で発足している。「世界の新聞王」で知られるルパート・マードック系列のタイム・ワーナー社も参加して創刊された当初は、同じく香港で発刊されていた英字週刊誌『Asiaweek』からの翻訳記事が見受けられるなど、いわば『Asiaweek』の中国語版姉妹誌といった雰囲気も強く感じられた。

 その後、経営陣に変動があり、1995年10月には経営本体の『明報』をマレーシアのサラワク出身で木材業の常成控股有限公司(ジャヤ・ティアサ・ホールディングス)を経営する張暁卿(ティオン・ヒョウキン)が買収し、現在では張の経営するメディア・ビジネス(世界華文媒体集団)の傘下にある。時に中国批判の記事も見られるが、やはり全体としては親中路線の誌面作りが目立つ。

『亞洲週刊』の世界的な販路拡大が示すもの

 創刊当初、『亞洲週刊』は香港を中心に台湾、マレーシア、シンガポールなど限られた国と地域でしか購入できなかった。ところが現在では香港・マカオ、中国、台湾、日本、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、フィリピン、韓国、オーストラリア、フランス・ドイツ、イギリス、ニュージーランド、ヴェトナム、カナダ、タイ、アメリカ、その他の地域と国で購読が可能である。かつてベルギーとオランダの華人社会調査に行った際、ユーロスターのターミナルの売店やらブリュッセルのコンビニで同誌が販売されていることを知ってビックリしたことを覚えている。

 30年間の販路の拡大は何を意味するのか。欧米諸国で中国語学習者が飛躍的に拡大したと考えるのは非現実的に過ぎる。常識的にいえば、やはり1978年12月に中国が対外開放に踏み切って以降の、ことに2002年に江澤民国家主席(当時)が「走去出(企業よ、中国人よ、積極的に海外に打って出よ)」の大号令を掛けて以降の中国からの海外移住者の増大が購読者の底辺拡大の背景にあるはずだ。


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