2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年5月19日

「ニセモノ」が出回るほど人気のワケ

 『亞洲週刊』(4月29日号)には30年間(51週×30年)分の表紙が掲載されているが、香港が本拠であるだけに、香港を扱った特集が最も多く、次いで中国、さらには台湾と「両岸三地」に関する記事が圧倒的だ。だが、周辺ASEAN諸国の動きも精力的に追いつつ、アメリカ、日本のみならず世界全体の動きへの目配りもなされている。それだけに、『亞洲週刊』によって政治・経済のみならず社会・文化面まで世界の動き――もちろん概観ではあるが――を捉えることができるだけに、中国語を解する者にとっては便利な雑誌だといえよう。

 じつは2013年春、ヴェトナム旅行をした際、ホーチミン(旧サイゴン)のチャイナタウンで知られるショロン(漢字で「堤安」と綴る)の本屋で『亞洲週刊』のニセモノ(写真-2参照)を手にしたことがある。オリジナルな『亞洲週刊』の表紙から裏表紙までの全ページをコピーして製本したものだ。本屋のオヤジに尋ねると、漢字での情報に飢えているヴェトナム在住華人にとって『亞洲週刊』は格好な媒体だ。だが庶民には高すぎる。そこでオリジナルを一冊手に入れ、完全コピー版を作ったところ歓迎された、というのだ。

【写真-2】筆者がヴェトナムで入手した『亞洲週刊』の「ニセモノ」(右)※画像は筆者提供

 アザトイというよりイジマシイというべき商法だろうが、コピー版であれ『亞洲週刊』、ということは中国語を通じて世界を知ろうとする姿勢は、やはり注目しておくべきだろう。

 ショロンで売られていたコピー版の『亞洲週刊』に、中国語人口の広がりを改めて知らされたと同時に、日本から遠く離れた海外のどこかの町で、日本の週刊誌をコピーしてまで読んでいる日系人があるのかどうか。いやコピーしてまで読みたいほどの内容の週刊誌を、現在の日本は持っているかどうか。大いに考えさせられた。

 たしかにインターネットの時代ではある。だから早晩消えゆく運命にある紙媒体などは打ち捨てて置くべきだとの主張もあろう。だが情報もまたファスト化、単純化、安易化の道を突き進んでいるように思えて仕方がない昨今の世相を一方に置き、中国社会の「全球化」という否定し難いもう一つの厳然たる事実を前にした時、『亞洲週刊』の30年の歩みは陳腐な紙媒体とは否定できない重い意味を持っているように思える。

 明治29(1896)年に故郷熊本の農民を引き連れシャム(タイ)での植民事業を進めようとバンコク入りした宮崎滔天は、その年の12月15日、「國民新聞」に「暹羅に於ける支那人」を寄せた。その文中に日本人と中国人の違いを、「一氣呵成の業は我人民の得意ならんなれども、此熱帯國にて、急がず、噪がず、子ツツリ子ツツリ遣て除ける支那人の氣根には中々及ぶ可からず」と記す。

  
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