2023年2月5日(日)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年5月29日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 このように、実態とイメージの間には大きなギャップが存在する。だが、上述のように良くないイメージを中南米系に対して抱く人々が多い以上、トランプ的な発言が支持される可能性がある。

 中南米系をめぐるトランプの発言で最近注目されているのは、一連の「動物」発言である。今月半ば、カリフォルニア州フレスコ郡の保安官がMS-13と呼ばれるギャング団(正式名称はマラ・サルバトルチャ)の脅威について発言したのを受けて、トランプ大統領は、「アメリカに入ってきている、入ってこようとしている連中がいて、我々はその多くを止めさせて、国外に追い出している。奴らがどれだけ悪い連中かわからないだろう。奴らは人間じゃない。動物だ」と発言した。

 これは、もともとはギャングについての話だったはずのものを、トランプが移民の問題として提起し直し、移民が犯罪と関係しているとの印象を与えるとともに、彼らを非人間化した発言として、多くのメディアに取り上げられている。トランプはしばしば麻薬やギャングの問題を中南米系移民の問題に置き換えて論じることがあり、犯罪に関与した(移民を含む)外国籍の者を頻繁に動物と呼んでいる。このような発言が移民に対する印象を悪いものとしている。

宙に浮いたままのDACA撤回

 大統領となったトランプは、大統領選挙中に移民について示した方針を実現しようとしている。だが、アメリカでは大統領には法案提出権がないため、トランプにできるのは、法案作成を議会に依頼することか、既存法規の枠内で大統領令を出すことである。その中で、今日注目を集めているのが若年層向け強制送還延期プログラム(DACA)の取り扱いである。

 不法移民問題の中で例外的位置を占めるのが、ドリーマーと呼ばれる人々をめぐる問題である。幼少期に家族に連れられて不法入国した人々は不法移民だが、その責を本人に帰すことの妥当性は低い。幼少期からアメリカに居住しているため、アメリカ人としてのアイデンティティを持つ人も多いし、英語しか話せない人もいる。このような人々の救済を目的として、ドリーム法と呼ばれる法案が何度か提出されてきた。DACAは、2012年にオバマ大統領が出した大統領令であり、ドリーマーの一部に滞在と労働を認める2年ごとの更新制プログラムである。

 DACAは一定の支持を得ており、69万人が恩恵を受けている。法的に見ると、ドリーマーに滞在許可を与えることは、行政権の行使として容認されるとされている。全ての不法移民を一斉に強制送還するのは不可能なので、どの人を優先的に送還するかを決める必要があるためである。だが、強制送還しない人々に労働許可を与えることについては議論がある。今ある法律の運用という枠を超えているため、このようなことを大統領令でやってしまうのは権力分立を否定する行為だと批判されているのである。

 トランプ大統領は2017年9月に、2018年3月5日から徐々にDACAの執行を停止すると発表した。それと同時に、国境警備強化と引き換えにドリーマーに滞在と労働を許可する政策を法制化することで、ナンシー・ペロシやチャック・シューマーら民主党指導部と合意した。だが、ニューヨークやカリフォルニアなどの州政府がDACA撤回の取り消しを求める訴訟を提起し、連邦地方裁判所もそれを認めたため、DACA撤回は宙に浮く形となった。トランプ政権は判決無効を求めて控訴中である。また、4月末に、テキサス、アラバマ、アーカンソー、ルイジアナ、ネブラスカ、サウスカロライナ、ウェストヴァージニアの7州が、DACAの執行を停止するよう、連邦政府に対して訴訟を提起する事態となっている。


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