2023年2月4日(土)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年5月29日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

DACA代替法案も
トランプの言動によって実現せず

 DACAをめぐる問題は、トランプ大統領の発言と行動によりさらに混乱している。先ほど指摘したとおり、昨年9月にトランプはDACA停止を決定する一方で、連邦議会にDACA代替法案の作成を要請している。そして、これまで少なくとも4回、DACA代替法案の実現をめぐる試みがなされているが、いずれもトランプの発言や行動の結果、失敗している。

 先ほど紹介したトランプがペロシやシューマーと結んだ合意については、その1カ月後、合意成立時には存在しなかった様々な要求をトランプが突き付けて、対話を不可能にした。今年1月に、共和党のリンジー・グラハム上院議員と民主党のリチャード・ダーバン上院議員が中心となって、ドリーマーに国籍獲得への道を開くとともに、トランプが主張する国境の壁を建設するための予算を一年間認める法案を作成したが、トランプがハイチやエルサルバドルからの移民について「肥溜めのような国」からやってくる人と発言して立法化の可能性がつぶれた。

 また、同じく1月に連邦政府が閉鎖の危機を迎えた際、シューマーがDACA代替法案の実現と引き換えに国境の壁建設費用として200億ドルの予算を付けるという妥協案を提示したものの、トランプが拒否した。そして、2月に再度連邦政府が閉鎖の危機を迎えた時、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務が壁建設費用として250億ドルを認める代わりにDACA代替法案を作る提案をしたものの、ホワイトハウスが反対の姿勢を示した結果、上院を通過しない事態となった。

 このように、DACA代替法案立法化の動きは民主、共和両党からなされているものの、トランプ大統領の発言や行動によって実現していない。にもかかわらず、トランプは、民主党の非協力的態度が原因でDACA代替法案が成立する可能性はなくなったと宣言し、その責任が民主党にあると発言し続けている。このような状態なので、共和党指導部は今年11月の中間選挙までにDACA代替法案を実現するのは不可能だと判断している。

中間選挙に向けて不安高まる共和党議員

 このような状況を好ましくないと考え、党指導部に反旗を翻した共和党中道派の下院議員がいる。通例、連邦議会下院の本会議で法案が審議されるためには、まずは関連する委員会で法案を通過させる必要がある。カルロス・カーベロらは、委員会での審議を免除して直接本会議採決に持ち込むための、委員会審査解除請願という手続きに踏み切ったのである。委員会での審議を経ずに本会議での採決に持ち込むためには、下院議員のうち218票を確保する必要がある。193人いる民主党下院議員は最終的にこの方針を支持するとみられているが、その他25票を共和党内で確保することができるかが注目されている。

 共和党下院議員の中でこのような動きが行われるのは、移民問題をめぐる一連のトランプ大統領の行動の結果、今年の中間選挙で自らの再選可能性が低くなったと考える共和党議員が存在するからである。トランプ登場以後、共和党は移民に冷淡だという印象が強まっている。だが、移民が一定程度居住する都市部を選挙区とする共和党議員の中には、親戚や友人の国外退去を回避してほしいと望む有権者の支持をつなぎとめておきたいと考える者が多い。今後、中南米系を中心とする、移民を起源とする有権者の人口比率が高くなっていくことを考えると、その思いは強いだろう。この点、民主党議員が、DACA代替法案の成立を阻むトランプを批判するだけで彼らの支持を確保できるのとは対照的である。


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