2023年2月4日(土)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年5月29日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 ポール・ライアン下院議長は、大統領が拒否権を行使するような内容の法案を出すのは共和党全体にとってマイナスに働くのに加えて、そのような慣例に反する対応は連邦議会の権威を貶める危険を伴うとして批判的である(もっとも、ライアンは本来、ドリーマーに限らず、刑事法に違反していないなど一定の要件を満たした不法移民に合法的地位を付与するのに積極的である)。そのような指導部の姿勢にもかかわらず、6月上旬には請願実現を可能にするだけの下院議員の署名が得られるのではないかと予想されている。

 今回の委員会審査解除請願では4つの法案がセットで出されており、そのうち最も多くの支持を得た法案が過半数の支持を得ていれば、それを下院を通過した法案と見なすことになっている。4つの法案のうち、一つは下院議長が提出できるものとされるが、残りは委員会で30日以上塩漬けにされている法案でなければならない。保守派の共和党議員が提出した、国境警備厳格化と合法移民の数削減を条件としてDACAの保護を限定的に実施する法案が一つ目に採決される。民主党議員が提出した、DACAをほぼそのまま法律にしようとするものが二つ目に採決される。三つ目に、ライアンが作成できる法案が採決される。最後に採決されるのは、国境警備強化とDACAを抱き合わせにする、共和党穏健派が提唱している法案である。

 委員会審査解除請願に基づいて提出された法案が議会を通過するのは稀であり、1935年から2016年の間での通過率は3%未満である。この点を考えれば、請願を行った共和党議員は、自分たちがドリーマーに好意的な態度をとっていることを示そうとしているのに過ぎないのかもしれない。あるいは、彼らの行動は共和党主流派に何らかの立法を促すための戦略である可能性もある。委員会審査解除請願に基づいて出された法案は、各月第2と第4の月曜日にのみ検討することになっているため、これが取り上げられるのは早くても6月末になるだろう。それまでの間に、下院や下院議長の権威低下を恐れる共和党主流派が通常の立法化を目指して行動することを期待しているのかもしれない。

 いずれにせよ、共和党穏健派議員がこのような請願を行ったのは、いかに彼らが中間選挙での再選に不安を感じているかの表れである。トランプ政権によってもたらされた移民政策について、中間選挙までにどのような動きを示すのか、注目する必要があるだろう。

  
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