同市で事業を行う水産会社取締役は、「魚も船も減り、年々漁業が衰退している。あれだけ大きな埋め立て地ができても、肝心の魚が取れなければ意味がない」と嘆く。実際、三崎魚市場での取扱数量と金額は、1989年には6万4000トン、620億円であったが、2014年には2万2000トン、200億円とそれぞれ約3分の1の水準まで落ち込んでいる。
こうした埋め立て地の現状について、三浦市政策部市長室長の徳江卓氏は、「ここまで漁業環境が厳しくなることは計画当初は想定していなかった。工事を進める途中で、漁船数や漁獲量が減少していることは把握していたが、中途半端な状態で終わらせられなかった。財政上の負担は大きく、何とかして利用業者を見つけたい」と話す。
このように、多額の漁港整備予算を投入して整備を進めたにもかかわらず、漁獲量も事業者も減り、残ったのは無用の長物と化した設備と、その維持・管理費というケースは他にもある。
天草諸島の南端、熊本県天草市牛深の漁港に忽然とモダンな橋が姿を現す。パリのポンピドゥー国立美術文化センターや関西国際空港ターミナルビルを手掛けたイタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノ氏が設計した「牛深ハイヤ大橋」だ。
牛深では1988年に県が魚介の保存・加工と流通の拠点化を目指して埋め立て地に漁港を整備し、漁協は90年にイワシなどの荷捌(にさ)き所を整備した。ハイヤ大橋は、この漁港と荷揚げ施設のある対岸とを結ぶために建設され、97年に開通した。総工費は142億円で、その半分を国が負担しており、水産庁の漁港整備のための予算が使われている。だが、漁港の湾内は道路ですでに繋がっており、橋は往来時間を若干短縮するに過ぎない。
また、立派な施設を整えたにもかかわらず、肝心の漁獲量は激減していった。牛深はかつてイワシ漁で大いに栄え、その水揚げ量は1949年には全国2位を誇った。しかし、80年代半ばに3万トンあったマイワシの水揚げ量は、その後急減し、2016年には1150トンとなっている。大中型まき網船団はゼロとなり、漁業経営体数は橋が開通した翌年の98年には607あったが、2013年には364へと大きく減少した。
利用実態に合わず不満噴出
現場置き去りで進む高度衛生化整備
前述の整備事業はすでに完了したものだが、現在も各地で漁港整備が進められている。全国有数の水産物の流通拠点である下関漁港もその一つだ。同漁港は、水産振興上、特に重要な漁港として特定第3種漁港に指定され、安全で安心な水産物の提供を図るべく、「高度衛生管理基本計画」に基づく整備が行われている。
主な事業内容は、荷捌き所の高度衛生管理化対策工事や長さ300メートルの岸壁の改良・耐震強化工事などで、22年度完成予定、総事業費見込みは137億円だ(今年3月末時点)。事業進捗(しんちょく)率は40%に至るが、現場からはなぜか不満が噴出している。
鮮魚の仲買を行う株式会社山口代表取締役常務の山口栄二氏は、「高度衛生化の整備で魚の立替スペースが極端に狭くなり、作業時間、手間が大幅に増える。また、パレットを保管する場所も、パレットの大きさと合っていないなど、現場の実態と合わない整備が進んでいる」と語る。工事の影響で荷捌きを行うスペースが確保できず、一時的な仮設施設を建設するなど、当初の計画にはなかった追加コストも発生し始めており、総事業費見込みは、15年3月末時点の92億円から45億円も増加した額である。