2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年6月18日

 2018年6月1日―3日、シンガポールのシャングリラ・ホテルで、英国のシンクタンクIISS(International Institute for Strategic Studies : 国際戦略研究所)が主催する第17回アジア戦略サミットが開催された。そのオープニングの基調講演を行ったのが、インドのナレンドゥラ・モディ首相である。約35分(A4版テキストにして約8ページ)のモディ首相の演説は、前半がASEAN(東南アジア諸国連合)への賛辞と印ASEAN関係の緊密化について語られ、後半は、インド太平洋地域の特徴を7項目の要素で説明している。それらの内容を紹介しながら、インド太平洋地域におけるインドの役割を考えてみたい。

(iStock.com/EasterBunnyUK/chanafoto/WesAbrams/idmanjoe)

インドとASEANとの関係強化

 今年1月のインドの共和国記念日に、モディ首相は、ASEAN10か国首脳を招いた。モディ首相は、「ASEANインド・サミットは、我々(インド)のASEANとの係わりと我々の‘アクト・イースト政策’(Act East policy)の証である。」と述べている。「アクト・イースト政策」は、まだ耳慣れない言葉かもしれないが、日本にとっては、かつて1980年代にマレイシアのマハティール首相が提唱した「ルック・イースト政策」が思い出される。恐らく、それをもじったものかもしれないが、インドとしては、ASEAN、さらには太平洋まで東側を向いて行動して行くという決意の表現なのだろう。

 モディ首相は、シンガポールに到着する前に、インドネシアを訪問し、首脳会談を開き、インドとインドネシアとの関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしたと言い、それから短時間、マレイシアにも寄り、マハティール首脳とも会ってきたことを披露した。

 モディ首相の演説では、古来より、「インド人の思考には海洋が重要な位置を占めてきた。」と言われたように、海洋国家としてのインドが強調された。シンガポールとは、25年にわたり中断することなく海軍演習をしてきて、近く新たに3か国でやることが決まっていて、さらには他のASEAN諸国にも拡大したいことが述べられた。そして、米日と共にマラバール演習を行っていること、インド洋でのミラン演習に多数の諸国が参加し、太平洋のRIMPAC演習にも参加することにも触れられた。

 モディ首相は、インド太平洋地域は、インド洋の先のアフリカから太平洋の端の南北アメリカまで、ASEANを中心に幅広い範囲を含むと地理的に定義し、ASEANとは、この25年間で、対話のパートナーから戦略的パートナーになったと語った。

インド太平洋地域とは?

 モディ首相は、インド太平洋地域に関して、次の7つの要素を挙げている。

(1)    自由で開かれた、排他的ではない地域である。

(2)    東南アジアがその十字路にあり、ASEANはその中心的存在である。

(3)    繁栄と安全保障のために、ルールに基づいた秩序を、対話を通して進化させることが重要である。

(4)    全ての国が平等に、海と空の共通空間を使用するアクセスを有する。

(5)    この地域、我々全ての国々が、グローバル化の恩恵を受けてきた。

(6)    連結性が不可欠である。インフラの整備のみならず、信頼の橋を築くことが重要である。

(7)    これら全ては、大国の対立の時代に戻らなければ、可能である。対立のアジアは、全ての国を後退させる。


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