2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年6月29日

(2)    中期的状況

 たとえ、米朝間の合意文書はあっても、その内容は抽象的で曖昧であり、同床異夢の可能性は大である。その意味では、全ては、今後の交渉にかかっている。「最大」ではなくても、今後も北朝鮮への制裁を維持し、圧力をかけながら、北朝鮮のCVIDを達成できるか。その過程で、米朝国交正常化交渉が進めば、日朝国交正常化交渉にも影響があるだろう。そうして、国交正常化が果たされれば、日本からも他諸国からも、北朝鮮に多額の資金が流れることになる。貧しい北朝鮮が裕福になる。日本その他の諸国は、お金で北朝鮮の非核化という平和を買うことになるのである。

 トランプ大統領は、記者会見やメディアとのインタビューで、しきりに「金正恩委員長は真剣である、私は彼を信用している。」と言った。これは、金正恩委員長も聞いているはずである。そして、トランプが金正恩を信じれば信じるほど、もしそれを裏切った場合の代償は大きいだろう。その時こそ、戦争になりかねない。そう思えば、トランプの言動は、交渉上の戦略としては、必ずしも悪くないのかもしれない。

(3)    長期的シナリオ

a.    中国型:北朝鮮の将来は、独裁体制を維持しながら(体制保証されながら)、経済的に改革・開放を行い、経済成長を高めて行く。独裁体制を維持するには、非核化をしようがしまいが、ある程度の軍事態勢を維持するだろう。

b.    ドイツ型:韓国の文大統領は、将来的に、南北朝鮮を統一することを模索している。38度線が緊張緩和され、南北の行き来が自由になれば、朝鮮半島が1つの国家となることはあり得る。ただし、民主化の程度は、ドイツと異なるだろう。

c.    ソ連型+α:1975年のヘルシンキ合意は、東西冷戦下の緊張緩和の一環として国境の画定を決めた。皮肉にも、その欧州で国境が崩れソ連は崩壊し、ロシアとなり国土を狭めた。北朝鮮は、安全を合意文書で保証されても、国境を開き、日米両国と国交正常化し、韓国と交流促進をする過程で、もしかしたら体制が崩れることもあり得るかもしれない。その場合、一時的に朝鮮半島は、無秩序的に混乱するかもしれない。

 このように、歴史的な米朝首脳会談は無事に開催されても、今後の歴史の道筋は不透明で、不確かである。トランプ大統領自身も述べているように、今回の米朝首脳会談は、プロセスの始まりにすぎない。このプロセスがいかに進むかによって、核、ミサイル、拉致問題のみならず、日本が位置する北東アジア情勢が大きく動く可能性があるのである。
 

  
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