2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月2日

 6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談については、6月12日付のワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォールストリート・ジャーナル紙の社説に見られるように、米国では、トランプ氏が北朝鮮に譲歩しすぎたというのが概ねの評価である。上記のハース会長の論説も、その具体的例の1つである。

 米朝首脳会談の後、トランプ大統領は、共同声明は包括的ものである、と自慢した。シンガポールに集まった記者達は、何が出て来るかと、トランプ大統領の記者会見を待っていた。そこで、明らかになったのが、上記でハースも指摘している短く、曖昧で、米国の主張が盛られていない声明文であった。

 ホワイト・ハウスは、ずっと、「完全で、検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)を主張してきた。米国の識者やメディアは、その言葉が入ることを期待しただろう。それが、「完全な朝鮮半島の非核化」、すなわち南北首脳会談で合意された板門店宣言から、何も進まなかった。ホワイト・ハウスは、北朝鮮への経済制裁は維持し、CVIDを目指すというが、北朝鮮がそれに応じているかは疑問が残る。

 そして、出て来たのが、トランプ大統領の米韓合同軍事演習中止の発表だった。それも、北朝鮮が米韓合同軍事演習を非難する時に使ってきた「挑発的」という形容詞を使用したことには、驚いた。そこまで、トランプ大統領が北朝鮮に譲歩してしまうようになった背景には一体何があったのか。疑問が残る。

 ハース会長が論説で主張していることはもっともであり、説得力がある。トランプが金正恩に裏切られたと感じた時、時計は逆戻りしてしまうのだろうか。CVIDが、現実には不完全で査察不可能で可逆的な非核化にならなければ良いのだが…‥‥。全ては、これからの米国の外交交渉にかかってくる。
 

  
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