蒐集家が絵を描くかわりに、次々と小品や習作を手もとに並べていったようにも見えるのだ。「すべてはコレクターの目で絵を飾るので、絵は自分のデコレートのひとつに過ぎない、自分のアレンジメントのひとつに過ぎない」と、画家とやり合ったこともあるらしい。
西洋絵画もピカソ、ブラック、ルオー、ジャコメッティ、キリコ、ミロ、エルンスト、シャガールからフォートリエ、サム・フランシスまで沢山あるが、やはり日本の近代絵画の方が多い。
そして柱となっているのは松本竣介である。戦前からの人で、戦後すぐ36歳で夭折した画家だ。描写で固める絵とは違い、現実が幻想につながるような描き方で、その油絵には西洋的な香りが漂っていた。一般に広く知られた画家ではないが、深いファンの層がある。
1941年頃 油彩・板
大川氏は「ニコライ堂の横の道」という小品を初めて見たとき、ぴんとこなかった。でもこういう絵はいっしょに生活して見るとよさがわかると、画商に預けられた。たしかに見ていて飽きないことに気がつき、次第に引き込まれていった。ほかにも松本竣介の絵は「運河〈汐留近く〉」という力作があり、大作「街」もある。
ちなみにこの美術館を手がけた建築家は、松本竣介の次男松本氏だと聞いて驚いた。松本莞〔かん〕氏は周囲の自然も美術館と考え、このような構成を心がけたという。
美術館は建物でいうと五階建てになっている。展示は時に部屋ごとの小さな企画展示でまとめられている。途中に雰囲気の違う階段があり、それを降りるとメンバーシップ会員談話室となっている。この美術館は財団がもとにあるが、桐生市も半分援助していて、もう一つの特徴はメンバーシップ制だ。桐生市内外のメンバー企業と個人会員が資金を出している。その名が小さな名札となって、階段の降り口に表示されていた。
談話室に降りると、大川氏が趣味で集めたアフリカ等の民族彫刻や、珍しいオブジェ類が並び、そしてコレクションの礎となった例のスクラップブックも展示されている。すべてはそこから始っているのだ。
(写真:川上尚見)
【大川美術館】
〈住〉群馬県桐生市小曽根町3-69 〈電〉0277(46)3300
http://www.kiryu.co.jp/ohkawamuseum/default.htm
1989年、桐生市出身の大川栄二氏(元ダイエー副社長)が市の支援を得て、生まれ故郷の市内を一望できる水道山の中腹に「逢いたいときにいつでも逢える名画の館」を目指し開館。7000点を超えるコレクションは松本竣介と野田英夫を軸に、2人と人間的なつながりのあった画家の作品を中心に収集してきたもので、明治以降から現代までの日本の洋画と、ピカソを中心とした欧米の作品を常設展示している。特に松本竣介は記念室が設けられ、デッサンやカット、資料も見られる。
〈開〉 10時~17時(入館は16時30分まで)
〈休〉 月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月28日~1月2日)、臨時休館あり
〈料〉 一般1,000円
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