2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2018年7月20日

 昨年は訪日観光客が最高の2800万人超となった。のべ宿泊者数でみると、約41%は三大都市圏以外の地方に泊まっている。地方を訪れる人の増加とともに、農家民宿、観光農園など、日本の農的空間への関心も高まっている。政府は農山漁村滞在型旅行をビジネスとして実施できる地域を2020年までに500地域にという目標を掲げる。インバウンドの巨大なビジネスチャンスを、どう農業経営に生かすか。6月11日に日本橋で開かれた農業とテクノロジーの融合をテーマにしたAG/SUM(日経新聞主催)で、農家と専門家に聞いた。

京都おぶぶ茶苑で茶摘みをする外国人客(京都おぶぶ茶苑提供)

フロントランナーのインバウンド需要の取り込み方

 トークセッションのテーマは「世界中にファンをつくる! インバウンド時代の農業経営」。インバウンドと農業の融合におけるフロントランナーの3人に、私が聞き手となってインバウンドと農業の可能性について語り合ってもらった。その模様を簡単にレポートしたい(敬称略)。

松本靖治:京都府和束町の京都おぶぶ茶苑副代表。2012年から外国人インターンを受け入れ、世界67カ国にお茶の発送実績を持つ。67カ国という発送国の多さは、農業分野では国内トップクラスだろう。

篠崎宏:JTB総合研究所執行役員、主席研究員。農家民宿をはじめとするグリーンツーリズムの第一人者。

平田真一:広島県三次市の平田観光農園社長。外国人客の受け入れを1990年から始めており、年間約4000人の外国人を受け入れている。国内の観光農園で外国人の受け入れ数はトップクラス。

 京都おぶぶ茶苑では、2006年から、海外で日本茶を普及する活動を始め、12年に3カ月間、茶園で働きながら日本茶を学ぶ国際インターン制度を設けた。常時4~7人の外国人インターンを受け入れていて、これまでに24カ国89人が制度を利用して訪れた。1日50円で1坪の茶畑のオーナーになれる「茶畑オーナー制度」があり、18カ国約800人のオーナーがいて、うち150人ほどが外国人だ。

 茶畑ツアーは、団体旅行を対象にした2時間程度の茶摘みとお茶の飲み比べをするものと、個人旅行者(FIT)を対象に4時間かけて茶摘みや飲み比べをするツアーを開いている。昨年からは、“お茶の大学”と題し、2週間に30コマほどの授業で日本茶についてじっくり学ぶ仕組みも作っており、今年は12人ほどが参加予定だ。

 篠崎宏さんは、北海道から沖縄まで、全国で地域活性化の戦略構築、観光客誘致戦略、新規ビジネスモデル構築などを手掛ける。特に、一次産業の分野でのコンサルティングに強い。単純に一次産業と観光を結び付けるだけにとどまらず、観光のメカニズムを使って、農産物の単価を上げることにも挑戦している。現在、宮崎県日南市の日南市役所、商工会、漁協と協力して、カツオの一本釣りの漁法を日本農業遺産に申請する準備を進めている。

平田観光農園でピザづくり体験をする外国人客(平田観光農園提供)

 平田観光農園は、公共交通手段がないというアクセスの悪さにもかかわらず、国内外から年間約16万人が訪れる。約150品種もの果物を栽培していて、秋にはブドウ、リンゴ、ナシ、プルーン、イチジク、ブルーベリーの好きなものが収穫できるという「ちょうど狩り」というコースがあり、人気だ。果物狩りだけでなく、アウトドア体験、ピザづくりなど様々な体験メニューを提供する。

 外国人客の場合、個人旅行者(FIT)の割合が6割まで高まっており、予約をしてレンタカーで訪れる人が多い。トークセッションの前日もアメリカ、香港、台湾からの外国人客がサクランボ狩りに訪れていたそうだ。ドライフルーツの輸出もしている。

コンテンツとして面白ければ外国人も来る

山口:地方を訪れて、「えっ、こんなところにまで外国人が来ているんだ」と感じることが多くなりました。地方を訪れる外国人が増える中、農業経営にインバウンドを取り込んでいくことが重要になっていくのではないかと考えています。まず皆さんがインバウンドにどう取り組んでいるのか、お聞かせください。

平田:中国地方のマチュピチュと呼ばれています。こんなところでも人が来るのかというところですけれども、あのマチュピチュでも人が行くということで、楽しいところであれば場所は関係ないということでございます。

平田観光農園の全景(平田観光農園提供)

 観光農園って、果物を一つずつ取っていって、最後はなくなるものです。うちではブドウ15万房、リンゴ25万個作っているんですけど、それがなくなれば終わりなものですから、日本人も外国人もあまり関係ないわけですよ。コンテンツとして面白いものを提供して、キラーコンテンツが誰にもまねされていなければ、外国人も来てくれる。


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