2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年8月1日

 EU首脳会議での議論の対象は、専ら上記の2つの提案であり、メルケル独首相の関心事である「二次的移動」は焦点ではなかったようである。それでも、首脳会議の結論には、「二次的移動」は EUの難民システムとシェンゲン体制を危うくするとして「加盟国はそのような移動に対抗し相互に密接に協力するため、あらゆる必要な国内的な法的行政的措置を取るべきである」との文言が盛り込まれた。 そもそも、メルケルは包括的な合意がEUレベルで直ちに可能とは思っておらず、有志の国との二国間の合意を目指した様子である。その結果、会議の際に、別途、スペインとギリシャとは、既に自国で難民申請を行った難民については、ドイツからの送還を受け入れるとの合意に達した由で、メルケルは予想以上の成果と述べている。

 イタリアとの合意はないが、スペインとギリシャは共に難民問題の前線の国であり、それなりの意義はあろう。これによってメルケルは、国内の政治危機を乗り切る手掛かりを得たのであろう。 

 難民問題を巡るEUの苦悩は深い。首脳会議は殆ど何も解決はしなかった。しかし、目下の政治的要請には応えた。首脳会議の後の記者会見で、トゥスク大統領は、「成功を語るには著しく早過ぎる。合意には何とか到達した。しかし、履行に際して待ち受けることに比較すれば、それは最も易しい部分である」と述べた。正直な評価であろう。
 

  
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