2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2011年5月23日


――そもそも5月2日にオサマ・ビン・ラーディンを殺害したのは、中東の変動や、中東政策の転換にタイミングを合わせたものだったのでしょうか?

池内准教授 ビン・ラーディンを泳がせていたとか、ビン・ラーディンはそもそもとっくの昔に死んでいて、今回殺害したことにした、といった様々な憶測は検証のしようがありません。ただ米政権側の作戦行動に対する説明も、遺体が水葬されているなど、検証の手掛かりが乏しく、ビン・ラーディン殺害という事象そのものについて考察を進めることは容易ではありません。

 ただし、オバマ大統領が、政治的にも、作戦上も、ここが最善のタイミングだと判断したからこそ、リスクの高い作戦に踏み切ったのだろうと推測はできます。

――今年1月から急激に拡大した中東各国での民主化運動と相俟って、ビン・ラーディンというイスラーム過激派の象徴的存在が消えたことによって、中東秩序はどのように変わっていくとお考えでしょうか?

池内准教授 一連の中東各国での民主化運動において、イスラーム主義過激派は、さほど影響力が強くありません。

 しかし、民主化によってイスラーム主義の衰退を警戒するエジプト、リビア、イエメン、シリアなど各国の揺らいだ政権側は、「民主化はイスラーム過激派の活動を活発化させる」と内外を脅してきました。サウジアラビアやヨルダンなどの政権側も、非公式の場では同様の発言をしています。このことは、中東の現状を知る者には極めて疑わしい議論ですが、米国政府内部の一部、議会や世論の一定の勢力に民主化支援を躊躇わせる効果がありました。ビン・ラーディンの死亡は、中東各国の政権のこういった言説の有効性を大幅に失わせたと見てよいでしょう。

 ビン・ラーディン殺害が、米国の中東政策を大きく転換する契機になることは間違いなく、すでに5月19日のオバマ中東政策演説は、これを受けた新しい政策の指針を示していると言えます。

――どうもありがとうございました。

*連載 池内恵准教授の連載「中東の眼 世界の眼」はこちらからどうぞ
 
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