2024年12月14日(土)

Wedge REPORT

2011年5月23日

ドミノ倒しのように続く民主化運動に、米国によるビン・ラーディン殺害。
今、中東情勢が激変している。
ビン・ラーディンという過激派のシンボルが消えたことで、中東情勢はどのように変化するのか。
そして19日のオバマ大統領演説から読み取れる、米国の思惑は?
現在カイロに拠点を置き、中東研究の第一線で活躍する池内恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授に聞いた。

編集部(以下「――」):5月2日に米国は国際テロ組織アル=カーイダの指導者ビン・ラーディンを殺害して世界を驚かせ、議論を招いたのに続き、5月19日にオバマ大統領は国務省で演説し、中東政策の指針を発表しました。米国の中東政策は変化しているのでしょうか?

池内恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授 アラブ諸国の「大規模デモ」の波を受けて、米国の対中東政策が再定義・再編成されていく過程にあります。重要なのは関心が「政権」から「国民」へと移ったこと、「安定を最優先する」政策から、「公正さを伴う安定」を模索する政策へと転換しかけていることです。現地の情勢が膠着化したり、変化があまりに米国の国益を害する場合、従来の政策を継続せざるを得ない局面も出てくるでしょうが、現地で強く民主化要求が出ている間は、新しい方針に沿った対応が主となっていくでしょう。

 これまでは、シリアやリビアのような反米政権への対処についても、エジプトやサウジアラビアのような同盟国に対しても、基本的には「政権」との関係だけを考えていればよかった。抑圧的な政権によって言論や政治活動は封じられ、翼賛議会や翼賛メディアしかなく、本当の国民の意思は図りようがなく、広範な国民の声が政治に反映されることもなかったので、考慮する必要がなかった。それが「大規模デモ」が政治の重要な要素になることで、変わってきました。

 オバマ大統領は5月19日の演説で、各国の国民の要求について「尊厳」を求める正当な意思表示としてとらえています。これはアラブ諸国の社会に充満する感情や、実際に行われている議論を適切に踏まえたものです。また、(1)テロ組織の掃討、(2)石油の安定供給、(3)イスラエルの安全保障、に重点を置いてきた政策を継続しつつ、これらの狭い国益に限定された政策を取ってきたことが米国に対する疑念を増し、反米感情をもたらしたという副作用を認めています。

 そして中東諸国の政権に「言論の自由、平和的な集会の自由、宗教の自由、法の下での男女の平等、指導者を選ぶ権利」を認めるよう求め、「改革と民主化への移行」を要求する、という新しい方針を示しています。

【オバマ大統領による中東戦略に関する演説(White House)】
http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/video/2011/05/19/moment-opportunity-american-diplomacy-middle-east-north-africa

⇒次ページ 日本の外交戦略に欠けている視点とは?


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