児童書で読み解く習近平の頭の中

2018年8月19日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

毛沢東に対する揶揄が感じられる一冊

「新型硅酸塩材料的世界」という副題が示しているように、この本は、無限の可能性を秘めた新素材と大いに期待されていた硅酸塩(silicate)と人類の関わりを石器時代から説き起こし、やがて人類の輝く未来を約束する万能の科学素材であることを語る科学ドキュメンタリーであり、空想科学物語でもある。

中国で1960年代前半に出版されたおもに児童向け書籍(画像:筆者提供)

「古代の労働人民は絶え間ない実践の末に」、「湿った粘土を捏ねて器のようなものを作り火に放り込んで焼くと、冷めた後に石と同じ程度に固くなることに気づいた」。そこで「我われ人類は銅や鉄といった金属材料を発明して後、(腐りも錆びもしない)石器に似た素材の陶器とガラスを産み出す」と書き出される。

 ここで不思議に思えるのが、「古代の労働人民」という表現だ。おそらく文革期なら「古代の労働人民」ではなく「古代の奴隷労働者」としていたに違いない。なにがなんでも古代は奴隷制であり、ましてや技術の進歩を担ったのは奴隷でなければならないという硬直した文革史観からすれば、「古代の労働人民」が「陶器とガラスを創造した」などという曖昧な表現は人類の進歩に尽くした奴隷の働きを否定するものであり、断固として認められないものだったはずだろう。

 その後、人類は誰もが知っている硅酸塩の家系の始祖である玻璃(ガラス)」に様々な工夫を加え、鉄より固く超高温にも耐えられるガラス、光線を遮断するガラス、レーダー波を透すガラス、さらには繊維のように細いガラス、鋼より固いガラス、ダイオード、電子計算機の「脳細胞」などを次々に発明する。セラミックの発明によってジェット機やロケットの燃焼機関の性能は飛躍的に向上し、「特殊玻璃鋼」で作られた先端部分を取り付けることで大陸間弾道弾の弱点が克服され兵器としての性能・威力が格段に増した。原子炉内部に新型の硅酸塩素材を使うことで超高温環境での核反応コントロールが可能となり、有限の化石燃料に頼らなくてもいい夢の発電システムが約束された。やがては「ラジオは繭玉ほどに、電子計算機はたばこの箱程度の大きさになるだろう――夢物語は続く。

「旧い視点で新しい時代を推し量ることは不可能」である。「失敗を恐れずに敢えて挑戦する革命精神を発揮して、多種多様な用途を秘めた新型硅酸塩素材を創造し、古くから知られた硅酸塩を進歩する新しい時代に生かしていこう」と締め括られているが、「旧い視点で新しい時代を推し量ることは不可能」などの表現からは、大躍進の失敗を回復させた劉少奇路線に不快感を隠さない毛沢東に対する揶揄が感じられないわけでもない。

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