ロシアのクリミア併合、英国の欧州連合(EU)離脱決定、トランプ米大統領登場で、北大西洋条約機構(NATO)に頼ってきた欧州の安全保障は大きな転機を迎えている。昨年末にEUは「常設の軍事協力枠組み(PESCO)」構築で合意したばかりなのに、マクロン仏大統領が英国を含む9カ国の「欧州介入イニシアティブ」をぶち上げた。ロシアの脅威と中東・北アフリカの混乱、難民、テロなどの複合危機に対処するため、NATOとEUの相互補完的な「分業」は成功するのか、それとも「崩壊」するのか。欧州の最前線から報告する。
第二次大戦でチャーチル英首相の首席軍事顧問を務め、戦後はNATO初代事務総長に就いた故イスメイは西側軍事同盟について「ソ連を締め出し、米国を引き込み、ドイツを抑え込むことだ」という名言を残した。
冷戦終結、旧ソ連崩壊でNATOは集団防衛の代わりに旧ユーゴ紛争やアフガニスタン、リビアでの域外任務に自らの存在意義を見いだす。しかし2014年、プーチン露大統領がウクライナのクリミア併合を強行、16年に英国が国民投票でEU離脱を選択、「米国第一」を叫ぶトランプ政権が誕生したことで欧州の国防・安全保障に激震が走った。
シリア内戦で100万人超の難民がEU域内になだれ込んだ欧州難民危機、過激派組織ISの興亡、130人もの犠牲者を出したパリ同時多発テロなどテロの激発で、欧州は「東の危機(ロシアの脅威)」「南の危機(中東・北アフリカの混乱)」「内なる危機(難民、テロ)」を抱え込むこととなった。しかし最大の震源地は、制御不能なエゴをむき出しにし、ツイッターで不規則発言を続けるトランプだ。
トランプは、カナダで開かれた先進7カ国(G7)首脳会議でホストのトルドー首相を「不誠実」とこき下ろし、NATO首脳会談で「ドイツはロシアの言いなり」と攻撃、英国訪問ではEUからの穏健離脱を決定したメイ首相をくさしてみせた。ヘルシンキで開かれた米露首脳会談後の共同記者会見では米国と世界中をあぜんとさせる場面が繰り広げられた。