WEDGE REPORT

2018年9月5日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 メルケル率いるキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)の大連立協定書は180ページ近くに達する。NATOへの貢献拡大は盛り込まれたものの、国防費の「2%目標」は明記されなかった。その代わりNATOとEUの協力、EUの軍事プロジェクトを調整する欧州外交メカニズムの強化を主導することが強調された。トランプが叫ぶ単純な「国防費拡大」より、メルケルはEUの役割を強化し、軍事力と外交力を組み合わせた「スマート防衛」を目指している。

 しかし今年2月、独軍の発表に西側諸国は驚愕(きょうがく)した。すぐ作戦行動に移れる戦力は、主力戦闘機ユーロファイター・タイフーン128機のうち39機、トーネード93機のうち26機、攻撃ヘリ・ティガーは62機のうち12機。主力戦車レオパルト2は224両のうち105両。潜水艦に至っては6隻すべてが海に展開していないという有り様だった。これがドイツの「本気度」だ。

 そのドイツが後押ししたのがPESCOだ。昨年12月、EU加盟28カ国中、英国とデンマーク、マルタを除く25カ国がPESCO構築で合意し、候補プロジェクト50件のうち、欧州医療司令部、派兵の円滑化、速やかに展開可能な危機対応やサイバー即応チームなど17件の準備を進める用意があると表明した。

(出所)筆者作成 写真を拡大

 しかしEUという枠組みと数にこだわったため、ハードルが引き下げられ、実際に危機に迅速に対応して軍事作戦を展開できるのか疑わしくなった。早速反応したのが、中東・北アフリカに多くの旧植民地を抱えるフランスである。マクロンは強い欧州とフランスの復権を目指しており、PESCOを補完するため、作戦の実行力を持つ国に絞った欧州介入イニシアティブの発足を急いだ。

 昨年9月、マクロンはソルボンヌ大学で(1)欧州の共通介入部隊・共通防衛予算・共通行動理念と欧州防衛基金の設置(2)軍事力をよりよく統合できる欧州介入イニシアティブ(3)情報収集力を連携する欧州インテリジェンス・アカデミーの創設(4)共通民間防衛部隊の創設─を提唱した。

 そしてマクロンはドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、サイバー即応に秀でたエストニア、PESCO不参加のデンマーク、EUを出ていく英国に声をかけた。左と右のEU懐疑派政党が連立政権を組んだイタリアは参加を先送りしたが、「南の危機」に対応することを念頭に欧州介入イニシアティブが今年6月、発足した。

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