WEDGE REPORT

2018年9月5日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 通訳だけを介した2時間の首脳会談で何が話されたのかは定かではない。共同記者会見でトランプは、ロシアの大統領選介入を断定した米情報機関を信じるのか、それとも露大統領を信じるのかと問いただされ、「プーチン大統領はたった今、ロシアじゃないと言った。ロシアである理由が見当たらない」と言ってのけた。

 プーチンは米司法省が起訴したロシア情報機関当局者12人について、米側の取り調べを認める代わりに元駐露米国大使や腐敗を告発した投資家を含む米市民の取り調べを申し出たが、トランプは即座に拒否しなかった。そればかりかプーチンを秋にワシントンに招待するとまで言い出した。支持層も激しい批判に転じたため、トランプは共同記者会見での発言を修正、プーチンへの訪米要請を来年に延期した。

 ロシアに詳しい英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ」のアンドリュー・フォクスオール部長はこう語る。

 「プーチンは長い間、米国が主導してきた世界秩序の土台を崩そうとしてきた。NATOを弱体化させ、EUを終わらせる。トランプが当選してから彼の政策はプーチンの目的と軌を一にしている。トランプの動機はプーチンのそれとは違っても、両者はオーバーラップしている」

 トランプは「安全保障のタダ乗り」を続けるNATO加盟国への苛立(いらだ)ちを募らせ、EUを米国の貿易赤字を生み出す元凶の一つと決めつける。

 米国の貿易赤字は中国を除くと大半が同盟国からもたらされる。孤立主義と保護主義を強めるトランプの「米国第一」はプーチンの「ロシア第一」に直結する。英米の情報コミュニティーではトランプはプーチンの手中に落ちているとの疑惑がくすぶり続ける。

 米国の貿易赤字と温暖化対策のパリ協定を巡り、米国と残りG6の対立が明白となった昨年のG7首脳会議の後、メルケル独首相は「他国に完全に頼ることができた時代はある程度終わった。私たち欧州人は自分たちの運命を自分たちの手に取り戻さなければならない」と欧州の自立を呼びかけた。メルケルの描くビジョンは「米国に頼り過ぎず、EUが中心になって、ロシアとの友好関係を回復する」ことだ。

すれ違う仏・独の思惑

一枚岩になれぬ欧州の苦悩

 ドイツはGDP(国内総生産)2%の国防費を支出するというNATO目標をどう考えているのだろう。「2%目標」をクリアしているのはNATO加盟28カ国(独自の軍事力を持たないアイスランドを除く)中、米国3・5%、ギリシャ2・27%、エストニア2・14%、英国2・1%、ラトビア2%の5カ国だけ。1・24%のドイツは対前年比1・99%増にとどまる。国防費に占める装備調達費の割合もNATO目標の20%に遠く及ばない14・13%だ。

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