2024年11月23日(土)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2011年6月16日

 日本の「新たな軍事ドクトリンや軍事能力」に触れる発言は一切なく、東京でよく知られた米国の有力防衛専門家は「ここから私が得た結論は、日本にはドクトリンがないということだ!」と(内々に)嘆く羽目になった。

 実際、北澤防衛相が講演の最後にまとめとして述べたのは、地震と日本政府の災害対応を「教訓」と見なすべきだ、ということだった。

 講演に続く質疑応答で、北澤防衛相に向けられた最初の質問(フランスの参加者から出たもの)は以下のような内容だった。

 「講演では米国との防衛同盟にほとんど触れもしませんでした。そのため、日本政府の高官に通常期待される、日本の防衛ドクトリンにとって日米同盟が最も重要だという確認の言葉もなかった。これが半ば省略されたことは、何か意味しているのですか?」

 北澤防衛相の答えはこうだった。「確かに、私は日米同盟についてあまり触れませんでした。それは今回の惨事に焦点を合わせるためで・・・」

 そこからさらに続けて、恐らくは事前に準備されていた論点を持ち出し、近く予定されている米国との協議や、最近の「防衛大綱と中国との関連性」について指摘した。だが、すぐさま話題を元に戻し、「我々は災害対応に専念しており、それが同盟の成功を物語っている」と述べたのだ。

 まあ、確かにそうかもしれないが・・・。

領土問題 “我々は勝った”
笑っちゃうくらい強気なロシア

 さて、今月のコラムの最後に、北澤防衛相のパネル討論の翌日にロシアのイワノフ副首相が見せた信じ難いほど傲慢な態度に言及しなければならない。本会議での講演は主要なテーマを網羅する洗練された内容で、実質的にも、協調と自制を求めるという意味でも、明らかにロシア政府を米国政府、中国政府と同列に並べようとしていた。

 そこまではよかった。だが、イワノフ副首相は、韓国および日本との貿易協定の深化を図るロシア政府の取り組みを自賛して、聴衆に質問の機会を与えることになった。つまり、ロシア政府は、長年くすぶり続けている北方領土紛争で容認できる妥協に漕ぎ着けることなく、どうやって日本政府との公式関係を深めるつもりなのか、という質問だ。

 恐れを知らない川口議員はこう問いただした。「今朝は平和的な交渉と相互理解に関して盛んにお話になりましたが、ロシアは北方領土に閣僚数人と大統領を送り込みました。それは相互理解の精神に反している! こうした領土紛争に対するロシアの政策はどんなものなのか?」

 すると、イワノフはあからさまに軽蔑的な笑みを浮かべて言った。「我々に言わせれば、『領土紛争』など存在しない。これは第2次世界大戦の結果であり、その結果に対するロシアと日本の解釈が違うということだ。世界各国はこうした事実をありのままに受け入れている! 私はこれまでに3度北方領土を訪問したが、日本から否定的な反応はなかった。なぜ今問題になるのか?」

 この発言を翻訳すると、こうなる。「我々は勝った。お前らは負けた。気の毒だな。乗り越えろよ」

 副首相のトーンや話し方から、会場にいた人は誰もが、彼が実際に「くたばれ、日本」と言ったと思った。読者の皆さんもその場にいたら、それ以外に、どんな読み方もどんな聞き方もできなかったはずだ。

 イワノフ副首相が質問に答え終わった時、筆者は隣の列に座っていた友人の渡部氏を振り返り、目を合わせた。我々は揃って、ふき出すように苦笑するしかなかった。

 果たして、日本は国際会議の場でこんなふうに受け止められたいと思っているのだろうか? 

 来月のコラムでは、もっと前向きな議論ができることを期待しよう。

[連載]世界潮流を読む 岡崎研究所論評集


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