2024年12月13日(金)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2011年6月16日

 筆者は6月初めの長い週末をシンガポールで過ごし、英国際戦略問題研究所(IISS、本部ロンドン)主催の年次アジア安全保障会議「第10回シャングリラ・ダイアローグ」に参加した。今年の会議には、すべてのアジア主要国の防衛相が正式参加し、米国、中国、日本、韓国、ベトナム、オーストラリア、そして主催者を考えれば当然のことながら、英国の防衛相らが一堂に会した。

 読者の皆さんもきっと、この会議に関するニュースの「見出し」を少なくともいくつかは見かけただろう。

これまでとはひと味違う?
米中 “協調” 路線

 会議では、米国のロバート・ゲーツ国防長官と中国の梁光烈国防相が重要な講演を行い、両者とも会場の各国代表団から厳しい詰問を受けた。中国人にとっては滅多にない経験に違いないが、梁国防相はひとたび意見の応酬をうまく処理できると見るや、明らかにその経験を楽しんでいた。

 両者の講演の大きなテーマは、今年1月の米中サミットの目的を継続することだった。先のサミットでは、バラク・オバマ大統領と胡錦濤国家主席が懸命に努力し、相互尊重と協調という統一見解を示し、我々が十二分に知っている難しい二国間、多国間の問題の数々を解決するために建設的に取り組んでいく決意を表明した。

 サミット当時、そしてシャングリラ・ダイアローグで発せられた「メッセージ」はともに、「対立ではなく協調」だった。

 これを口先だけのPR戦術として片付けたくもなるかもしれないが、我々は謹んで、本当に重要な意味があると訴えたい。これは米国政府、中国政府双方が可能な限り衝突を避ける必要があるという切実な事情を正確に映し出しているからだ。たとえそれが、両国政府が対峙しなければならない重大な国内問題を抱えており、どちらも回避できる戦いには時間と労力と資源を割きたくないためだったとしても、だ。

 そういうわけで、今年のIISSの会議は、しばしば対立が生じた昨年の米中会談とはかなり調子が異なっていた。

 昨年、特に際立ったのは、ヒラリー・クリントン国務長官が東シナ海と南シナ海における中国の攻撃的な行為を厳しく糾弾した時に勃発した、極めて面白いが、緊張を高める「バトル」だ。当時は中国が尖閣諸島で日本と衝突し、東南アジアでは南沙諸島でベトナムやフィリピンと衝突していた。後者はいずれも、関係国の排他的経済水域(EEZ)の奥深くに入り込んだ地域だ。

 といっても、中国政府と近隣諸国との対立が今年のシャングリラ・ダイアローグで絶えず話題にならなかったという印象は持たないでほしい。反対に、こうした問題は関係国のすべての大臣がはっきり口にし、多くの質問がゲーツ長官と梁国防相に投げかけられた。

 我々がここで強調したいのは、トーンが相当違っていたということだ。それは明らかに意図的で、ことによれば米中両政府の間で取り決めがあった可能性さえある。

 聴衆として参加したメンバーは、互いに密接に結びついた2つのものを求めていた。ゲーツ長官からは、米国が引き続き、軍事力と外交力を駆使して「中国の台頭」がもたらすあらゆる課題について友好国と同盟国を支持するという言質。梁国防相からは、過去1年半の近隣国イジメと中国が大々的に発表した防衛近代化計画は、中国が高まる軍事力を使って様々な問題に解決策を押し付けようとしていることを意味するわけではないという確証だ。

 ゲーツ長官は適切な確約をすべて与え、シンガポールの政府高官を相手に、5年後どころか10年後でさえ、アジアにおける米国のプレゼンスが今と同じくらい強力で実効性があることに100ドル賭けてみせたりもした。

 梁国防相はそれほどうまく地域の懸念を和らげることができなかった。言葉は穏便で、中国の「ソフトパワー」を訴えたにもかかわらず、人民解放軍海軍が「外交」に対して次第に攻撃的なアプローチを取っている事実は避けられなかったからだ。

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