国民に一体感が生まれない「中南米の病巣」とは?
オルテガ氏の浮き沈みの激しい人生は、革命の英雄が転落していく共通パターンそのものである。青雲の志に燃えた18才から権力の亡者と化した72才まで、国民を独裁者の手から解放しようと決意に燃えた若者は、結局、自らが独裁者となり国民を弾圧する側に回ってしまった。
しかし、ニカラグアを見る時、革命の英雄の転落以上のものを感じざるを得ない。どうしてニカラグアで、ソモサ一族が40年以上の独裁を続け、どうして革命が起こりソモサが打倒されたのか。どうして革命を主導したものが再び独裁者となり国民を弾圧する側に回ってしまったのか。
中南米はどこも同じだ。社会が割れている。国民に一体感がない。
社会の上層部はどうせ私腹を肥やしているとの思いが、大衆の心からどうしても消えない。だから全国民が一丸となって国造りに励むという意識がない。中南米はそういう社会構造なのだ。スペインやポルトガルによる植民地支配は、支配者と被支配者が厳然と分かれる社会をつくりあげた。被支配者は満足な教育も受けられず、ただ貧困の中に毎日を送るしかなかった。支配者はただ利益をむさぼり、国家とか国民とかの意識はほとんど持っていなかった。さらに、米国資本がこれに絡み、支配層と共に利益を追求していった。
かつてBRICSがもてはやされ、新興国の台頭が言われた時、中南米は新たな中間層の形成を通し大きな成長が見込まれると言われた。しかし、社会が割れ、上層部のみが利益を吸い、そのおこぼれにあずからない大半の国民がそれを冷ややかに眺めるところに発展があるだろうか。ニカラグアには、まさにこういった社会構造が強固に存在する。
革命後に力を入れるべきは「教育」
オルテガの変節と転落はオルテガ自身が責任を負わねばなるまい。オルテガも若いとき、ニカラグアの社会に矛盾を感じ、ソモサ打倒に走った。しかし、ソモサの打倒には成功したが、社会の構造転換までは力が及ばなかった。
社会の基本構造は歴史の年輪を経て、長い年月の間に形作られていく。これを変えようと思えば、それもまた長い年月の中に徐々に変えていくしかない。結局、オルテガ氏にとり革命が成就した後こそ重要だった。社会の根本的なところ、つまり「人」にこそ手を入れるべきだった。それは「教育」である。教育こそがニカラグア社会の矛盾を解決するカギだった。教育を通し、下層の者が上層に上がれる仕組みを作り、努力が報われる社会をつくるべきだった。教育により、割れた社会を一体化すべきだった。
しかし、教育をなおざりにし、「割れた社会」の中に生きてきた中南米の指導者が、そこに思いが至ることはほとんどない。
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