7月30日に行われたジンバブエの大統領及び議会選挙は、いずれも現職のエマーソン・ムナンガグワ大統領及びその与党Zanu-PFの勝利に終わった。3日、選管が発表したところでは、大統領選挙は、ムナンガグワ氏が50.8%、対する野党「民主変革運動」(MDC)のネルソン・チャミサ氏が44.3%を、また、議会選挙はZanu-PFが3分の2を制し、憲法改正も可能な議席数とした。
チャミサ氏は「選挙結果が民意を反映しえないのであれば我々はそれを受け入れることはできない」と声明を発表、首都ハラレ市内は選挙結果に抗議するデモ隊とこれに対峙する治安部隊とで騒然とした。当初、警察が治安維持にあたったが、それだけではデモ隊を抑えられず、政府は新たに軍を投入。軍はデモ隊に向け発砲し6名が死亡したとされる。町はデモ隊の投石と放火による黒煙で大きな混乱の中にある。
チャミサ氏側は、ムナンガグワ氏側が選挙の不正を行ったとしてこれを強く非難、あらゆる手段に訴え戦っていく旨公言している。野党側は選管による記者会見の席上、法律の規定に反し野党側が開票作業を検証することができなかった、と非難したが、これを報じるテレビ番組は直ちに中国映画の放映に切り替えられた。開票所は合計11,000箇所あり、そのすべてに野党側が要員を派遣し開票作業を見守ることは不可能である。また、投票済用紙を写真撮影のうえ中央選管に送らせることも試みられたものの実際に送付できたのは数百枚に過ぎなかった、という。
クロコダイルの異名を持つ男の「黒すぎる経歴」
昨年11月、それまで37年、ロバート・ムガベ氏が政権の座にあったが、軍がムガベ氏を辞任に追い込み代わってムナンガグワ氏が大統領に就任した。今回の選挙は政権が代わって初めての選挙である。新しい政権の下で果たしてジンバブエは変わったのか、内外が選挙の帰趨を注目した。
ムナンガグワ大統領は就任後、ことあるごとに「ニュージンバブエ」を強調、「民の声は神の声」とのスローガンを繰り返し、新しいジンバブエを訴えた。ジンバブエは生まれ変わったのだ、新たな時代が始まるのだ。確かに、それまで政府批判の報道は容赦なく弾圧されていたが、それがぴたりとなくなり、野党の集会も自由に開催できるようになった。今回の選挙から採用された有権者の生体認証システムは選挙の不正防止を期待させたし、ムナンガグワ大統領が、世銀、IMFと協調して経済再建を行っていく旨述べたことは投資家にジンバブエ経済への期待を抱かせた。
しかし、選挙を通して明らかになったのはそうした期待とは裏腹に、ジンバブエが旧態依然たる状況のままであるということだった、と欧米メディアは批判する。選挙の不正はこれから徐々に明らかになっていくだろうが、例えば今回、23名の候補者を名簿に記載するに際し、15番目のムナンガグワ氏の名前が「偶然にも」第二列目トップに記載され、有権者の目につきやすいよう工夫された、投票済用紙を軍が開票所まで運んだが、正しく運搬されたかどうか疑問だ、等と指摘されている。
他方、開票後、デモ隊の鎮圧にあたった軍の対応は凄惨を極め、投石する群衆に軍は容赦なく発砲を繰り返した。中には背後から撃たれ死亡した者もおり、軍が逃げ惑うデモ隊に向け銃を発射したことが窺われる。
何と言っても、ムナンガグワ氏はムガベ前大統領の下で37年にわたりその右腕として活躍した人物であり、副大統領、国防大臣、秘密警察長官等、常にムガベ政権の要職にあった。ムガベ前大統領治世下において多くの虐殺事件や選挙の不正があったことが知られているが、その責任者がムナンガグワ氏であったことは疑いない。その非情ともいえるやり方に国民は「クロコダイル」のあだ名を付け恐れた。欧米メディアは「大統領はムガベ氏からムナンガグワ氏に代わったがジンバブエの強権体質はそのままだ。結局、クロコダイルはクロコダイルでしかなかった」(南ドイツ新聞)という。
国連はジンバブエの人権侵害に対し制裁を行っているが、ムナンガグワ氏が盛んに「ニュージンバブエ」を強調するのも、制裁解除と資本流入を狙ったパフォーマンスと見られている。しかし今回の選挙を通し、結局、ムナンガグワ氏の強権的、抑圧的体質が露呈することになった。