Washington Files

2018年9月10日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 並行して、大統領の司法長官に対する捜査指示とは別に、徹底した調査を求める声も挙がってきている。

 トランプ大統領シンパとして知られるランド・ポール上院議員は大統領あてに「執筆者が誰か、嘘発見器を使ってでも徹底的に犯人捜しをするべきだ」と勧告したほか、ホワイトハウス内部でも、「政府高官たち」に「身の潔白」を証明する署名入りの供述書を書かせるべきだとする意見も出ていると伝えられる。

 しかし、その一方できわめて興味深いのは、匿名寄稿文を掲載したニューヨーク・タイムズに対する批判や、犯人捜しをめぐる混乱をよそに、トランプ政権当局者たちの間で、これまでのところ寄稿内容そのものの真偽について、真っ向からこれを否定したり、驚きの声はほとんど挙がっていないという点だ。むしろ事実は事実として暗黙のうちに認めているかのような印象させ与えている。

 連邦議会でも、共和党のボブ・コーカー上院議員は記者団に反応を聞かれ「ことさら新しいニュースでもなんでもない。われわれは(ホワイトハウスの混沌ぶりという)現実の中に生きているのだ。むしろ、なぜ政府内で誰もこれまでこうした実態を記述しなかったのか、ということのほうが大問題というべきだ」とコメントした。

 同じ共和党のベン・サッシー上院議員もラジオ番組の中で、匿名の「政府高官」が暴露した内容について「われわれが週3度はホワイトハウスの高官たちから聞かされてきたことと瓜二つだ。大変困ったことだが、ことさら驚くに当たらない」と語り、匿名記事の指摘が的を射たものであることを認めたかたちとなっている。

ベテラン・ジャーナリストの暴露本

 さらにホワイトハウスにとって致命的だったのは、前後して、かつて「ウォーターゲート事件」の追及報道でニクソン大統領を辞任に追いやった著名なベテラン・ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が執筆した暴露本『不安―ホワイトハウスのトランプ』の出版が発表されたことだった。

 発売に先立ち明らかにされた内容によると、

  1. 大統領の下で働くスタッフたちの多くが、トランプ氏の危険極まりない衝動的行動をなんとかブロックしようという目的でホワイトハウス入りした
  2. ゲリー・コーン経済担当補佐官は在任当時、米韓貿易協定破棄を通告する書簡が公表されると両国関係に大災害をもたらしかねないと判断して大統領が署名しない前に大統領のデスクから自分が抜き取った
  3. ケリー首席補佐官は大統領を“バカ者”呼ばわりし、マティス国防長官はアサド・シリア大統領殺害を指示した大統領命令をあえて無視した
  4. 大統領は自ら任命したセッションズ司法長官の南部なまりのしゃべり方を真似しながら「知恵遅れの男だ」と見下し、79歳になるウイルバー・ロス商務長官について「彼はもうだめだ。これ以上交渉事をやらしてはならない」と評した
  5. 大統領は外国との貿易を悪いことだと信じ、機関車、煙突産業、工員がせわしげに働く組み立て工場などの「老朽化したアメリカ観」にしがみついている

 といった生々しい当事者たちの証言が盛り込まれている。ニューヨーク・タイムズ匿名寄稿で描写されたホワイトハウスの実情を、より具体的なエピソードで詳述した内容ともいえよう。

 大統領に対する最近の支持率は、ただでさえ自らのセックス・スキャンダルもみ消し事件やロシア疑惑関連の大きなニュースがあいつぎ、「40%前後」と低迷傾向にある。そこに今回、ショッキングなホワイトハウス内情暴露が続いた。今後も刑事訴追されている元側近たちの公判結果や証言次第では、さらに苦境に立たされかねない。

 投票まで2カ月を切った中間選挙に向けて、これから共和党政権がどう逆境を切り抜け巻き返しを図っていくのか、まさに正念場を迎えようとしている。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る