2022年12月2日(金)

Washington Files

2018年9月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

「政府高官」がトランプ大統領の政権運営の内幕を暴いたニューヨーク・タイムズへの匿名寄稿は、その後もホワイトハウスを激しく揺さぶり続けている。“犯人捜し”が始まる一方、各閣僚や補佐官らがあいついで関与を否定する声明を出すなど、波紋は広がる一方だ。

 「潜在細胞の覚醒だ! (The sleeper cells have awoken)」

 匿名寄稿文がニューヨーク・タイムズ電子版で最初に流れた5日午後、ホワイトハウス内外の関係者たちの間で緊急に交わされたネット会話の第一声だった(同日付ワシントン・ポスト電子版)。クーデターを画策する反乱分子たちが政権内部に潜伏しているかのような反応ともいえ、受けた衝撃の大きさを物語っている。

移動中の航空機内で質問に答えるトランプ大統領(AP/AFLO)

 米有力各紙の報道によると、大統領は寄稿掲載について「噴火山のように爆発」、「国家反逆的な行為だ」などと激怒した上で、「(犯人は)国家安全保障分野の関係者か司法省あたりだ」とも述べたという。そして7日には、司法長官に対し、この件について捜査するよう指示した。

 すでに海外でも大きく報じられた通り、「政府高官」による問題の寄稿文は「私は大統領に仕えているが、他の同志たちとともに大統領の取り組むべき課題と彼の最悪の性向を少しなりとも阻止することを決意した」という書き出しから始まり、具体的には:

  1. トランプ政権内には、大統領の暴走を内側からなんとか阻もうとまじめに努力している多くの政府高官がおり、私もその一人だ
  2. われわれの第一義務はわが国に対して負っているが、大統領はわが共和国にとって有害となる振る舞いを続けており、それゆえに多くのトランプ政権当事者たちが、彼が退任する日まで大統領の誤った衝動を阻止するとともにアメリカ民主主義組織維持のために最大限努力することを誓った
  3. その結果として、現政権は「ツー・トラック(複線化)」で運営されており、大統領がロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩最高指導者のような独裁体制への傾斜を強める一方で、大統領以外の他の政権当事者はアメリカの同盟諸国を敵対視するのではなく同等の仲間として遇する別の路線を進んでいる
  4. 大統領はミーティングでトピックから外れたり脱線し、同じことで何度もわめき散らし、衝動的に半煮えで十分な理解もしないまま無謀な決定を下した結果、後で引っ込めたり後退せざるを得なくなっている
  5. 政権内には政治を超え国を最優先させようとする静かな抵抗勢力が存在し、いかに国民のために立ち上がろうとしているかを示す真価が問われている

 などと訴えた。ニューヨーク・タイムズ紙は同寄稿文について、執筆者の要請を受けて匿名にしたとした上で、「当人はトランプ政権の高官であり、弊社はこの人物の身元も名前も承知しており、あえて匿名によるエッセイ掲載が読者に重要な視点を提供する唯一の方法だと確信する」と掲載理由を説明している。

 アメリカでは大手新聞社が、匿名でしかも長文の投書を掲載するケースはきわめて異例であるだけに、ホワイトハウスはじめ政権内部に衝撃が走るとともに、関係者の間で早速“犯人捜し”の憶測がネットなどを通じて広がり始めた。

 このためあらぬ疑いをかけられたペンス副大統領、ポンペオ国務長官、マティス国防長官、セッションズ司法長官、ニールセン国土安全保障長官、ボルトン大統領補佐官、コーツ国家情報長官らは、ただちに否定声明やコメントを出したほか、うわさの対象外の農務、運輸、労働、内務、国連大使、通商代表などほとんどの閣僚、閣僚級幹部たちも翌日までに“身の潔白”を表明するほどの騒ぎとなった。

 ニューヨーク・タイムズ紙の続報によると、「政府高官(senior government official)」
に相当するランクの当局者たちのうち、これまでに「20数人」がつぎつぎに「関与否定」を表明、そのたびごとにホワイトハウスのスタッフが大統領にメモを入れているという。

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