建設コストの壁
さらに問題なのは、壁建設の総元締めである「国土安全保障省」が国民を説得できるだけの具体的な建設総コスト、完成までの建設スケジュールなどについていまだに十分なデータを用意できていないことだ。
この点に関連して、米会計検査院(GAO)は去る8月6日、調査報告書を公表、この中で「国土安全保障省は莫大な建設予算の必要性を指摘しているが、具体的に建設資材調達、建設要員の規模、そのための人件費、投入されるテクノロジー、完成後の必要維持費など議会予算審議に際して不可欠な説得力ある情報や資料を用意できておらず、このまま予算を組んでもコスト・オーバーになるか、計画自体がとん挫のおそれもある」と厳しく警告したばかりだ。
その連邦議会では9月18日、上院が10月からスタートする2019会計年度歳出法案(8540億ドル)の承認にようやくこぎつけたものの、大統領が「9月中までに通過させなければ政府機能一時停止もやむなし」と強気の姿勢で要求していた第一段階の50億ドル分の壁建設予算については、上下両院での折り合いがつかず当分、見送りとなった。
壁建設への大統領の強い意欲にもかかわらず、連邦議会がそのための予算編成にいまひとつ気乗り薄なのは、国民の明確な支持が得られていないこととも関係している。
去る6月21日発表されたギャラップ世論調査によると、国民の57%が計画推進に反対を表明、これに対し支持は41%にとどまっている。さらに民主党支持者層を対象とした調査では、85%近くが反対だ。
こうした中で、投票まであと2カ月を切った中間選挙では、大統領支持率の低迷も影響し民主党が下院を制する可能性が一段と高まりつつある。
もともとトランプ氏にとって、“Build the wall!(壁建設を)”は、“America First!”とともに自ら2016年大統領選を通じ有権者向けに熱っぽくアピールしてきた重要な公約であり、しかも両者は表裏一体の関係にあるだけに、このところ本人の焦りといらだちも募る一方だ。
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