2024年11月22日(金)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年7月29日

黒光画伯(右)おすすめの「てっさい堂」には、貴道裕子さん(中央)のお眼鏡にかなった器や骨董がところ狭しと並ぶ。大柄な森枝さんはおそるおそる進入

 でも、ここなら大丈夫でしょ、というのが「てっさい堂」。豆皿が山のように積み上げられた、それこそ有名なお店だ。まだ、だいぶ若い頃、友人のエッセイスト、松山猛さんに連れてこられたことがあった。あれこれ眺めているうちに思い出した。

 その若い頃の私には、正直いって響かなかった。特に感じるものはなかった。どこぞに引っかけて、割ってはいけないと思ったくらい。

 が、私がそれなりに年を重ねたからか、改めてひとつひとつ丁寧に眺めてみると、これがたまらない。コインで買える日常から、家宝になるようなものまで渾然一体となっている面白さ。曼荼羅のような小宇宙に遊ぶ楽しさ。そう、ほとんど宝探しだ。

 小さいものばかりだから、買って帰っても、妻に気付かれぬかもしれぬ。来るたびに少しずつ季節のものでも買い足せば楽しいと、改めて思った次第。意識して探せば、四季を豊かに暮らすための知恵が、小さなヒントが満ちている。今の季節なら、箸置きや小皿で呼べる涼しさがある。

 そうそう。スペースと財布に余裕のある向きには、すぐ向かいのギャラリーもお薦めだ。失礼ながら余技かと思っていた細川護熙(ほそかわもりひろ)元総理の作陶が、こちらが天職だったかと思わせる素晴らしさ。さまざまな技法、どれも素晴らしく、現代の魯山人かと圧倒される。

 さて。殿様の器は買えねど、少しだけ荷物が重たくなった。お腹には余裕が出来てきた。もう一人の食いしん坊仲間と合流しよう。

 場所は千本通、居酒屋の「神馬(しんめ)」。友は鰹節などのおだしの老舗、「うね乃」の当主、釆野元英(うねのもとふさ)さん。そう書くだけでどのような人物か、お分かりいただけると思う。料亭、割烹の類を裏から知り尽くしている。

釆野さん(右から2人目)が合流、ご主人(右)と盛り上がる食いしん坊トリオ

 普通に美味しい料理屋さんなら、星の付いているガイドブックの類でも分かる。美味しくも面白いところ、意外な筋に連れて行ってとわがままを言った。その答えがここだった。

 まさに居酒屋。それも映画に出てくるような、歴史の中の居酒屋のイメージそのままの店内。

 しかし、あれこれお薦めを注文しては、一献とやっていると、ただの居酒屋ではないことがすぐに分かる。まるでおもいっきりカジュアルが許される京都の料亭だ。お任せではなくて、好きなものだけ注文出来るが、登場するものは真っ当な料理屋さんのレベルのものだ。星をもらっているような有名どころの料理屋さんの主人や板さんが、休みの日に来る店と聞いて、なるほどと思う。納得する。

上から丸鍋(すっぽん)、鱧ときゅうりの酢の物、ずいきの煮びたし

 季節ものの鱧(はも)やら京野菜やらつまんでいると、それだけで夏バテなどという言葉を忘れてしまう。飲食共に進んでしまう。暑い中での熱燗がまた好ましい。

 おかげで、その後流れた、あの隠れ家のようなバー、次回は庭先に椅子でも持ち出して、のんびりとシャンパンでも開けようと思ったあのお店、どこだったのかも霞の中だ。京都らしい奥行きのある町家で、奥には気持ちの良い庭があって、なるほど涼をこの空間でと思ったのだけど。

2日目へ続く(7月30日公開です)

(写真・打田浩一)


 

・わらじや
京都市東山区七条通本町東入ル西之門町555
075(561)1290
11時30分~14時、16時~19時(土・休日は通し営業)
火曜定休
・てっさい堂
京都市東山区古門前通大和大路東入ル元町371-3
075(531)2829
10時~18時
・神馬
京都市上京区千本通中立売上ル玉屋町38
075(461)3635
17時~22時
日曜定休

◆ 「ひととき」2011年8月号より

 

 

 

    

 
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