イラクでは総選挙後、いまだに新政権が発足できないまま混迷が続いている。選挙の結果、反米、反イランのシーア派のサドル師グループが第1党に躍進、イラン支援の勢力が第2位、過激派組織「イスラム国」(IS)を一掃した米後押しのアバディ首相派は3位に敗れた。政治的空白の中で、バスラでは生活環境の悪化に怒った住民のデモが多発、政情不安が高まった。
最近になってやっと国会議長が選出されたものの、肝心の首相の選出には至っていない。その最大の理由は米国とイランが水面下で新政権をめぐって綱引きをしているからだ。イラクに影響力を持つこの両国が裏で合意しないと首相は決まらないというのがイラクの実態だ。
米国のブレット・マクガーク有志連合代表と、イラン革命防衛隊の「コッズ」司令官のカセム・スレイマニ将軍がそれぞれ、有力政治家を取り込もうと工作中。米国はアバディ首相を続投させたい考えだが、IS戦争で荒廃した復興資金を出し渋っているため、“利権目当て”の政治家らを説得できないでいる。
こうした中、イラン南部アフアズで9月22日、軍事パレードが4人組に襲撃され、革命防衛隊の隊員ら25人が死亡するテロ事件が発生した。イランの最高指導者ハメネイ師は実行犯が敵対するサウジアラビアなどから資金を提供され、米国の支援を受けていたと明らかにし、米国との対決姿勢を強めた。
虎視眈々と狙う中国、ロシア
しかし、イランの窮地は次第に鮮明になりつつある。イランの輸出の70%を占める原油の生産は日量460万バレル(2016年)。うち輸出は最大270万バレルだったが、米国が核合意から離脱し、対イラン制裁発動の結果、輸出が激減し、100万バレルにまで落ち込む可能性がある、という。
イランの通貨リアルは9月に入って対ドルレートで1ドル17万リアルと最安値を記録、通貨価値は年初来約75%も下落した。通貨暴落で輸入品が高騰、紙おむつなどが手に入らなくなるなど市民生活に重大な支障が出ている。
さらに各国が第2弾の制裁に先立って次々に原油取引を停止している上、核合意がまとまった後にイランに進出してきた外国企業が相次いで撤退を打ち出しているのが痛い。今度の制裁は「イランとの原油取引を禁じ、原油を購入した当該者を米市場や金融システムから締め出す」という内容であり、米国から2次的制裁を受ける覚悟でイランと取引する企業がないのが実情。
米国を除く、核合意の当事者、英仏独中ロの5カ国は合意の維持を確認し、国連総会に合わせて外相級会議を開催。制裁を迂回するシステムを構築することで合意し、ドル以外の通貨決済を活用する方法を検討中だが、イランとの取引停止の流れを止めるのは難しいだろう。
米メディアがワシントンの保守系シンクタンクの調査として報じたところによると、9月初旬までにイラン駐在の外国企業のうち、71社が撤退を、19社が残留を決め、142社がまだ対応を決めていない。イラン原油の輸入先の第2位のインドの企業も原油購入の停止を表明、第3位の韓国も夏から購入をやめている、という。フランス、オーストリア、スペインなどの欧州各国も原油購入や油田開発から撤退しつつある。
こうした西側企業が抜けた後の穴を埋めようとしているのが中国とロシアだ。中国はイラン原油の最大の輸入先だが、フランスの大手エネルギー企業トタルがイラン・ペルシャ湾の大規模ガス田「サウスパース」開発から撤退した後、その肩代わりをしようと狙っている。ロシアの巨大企業も100億ドルに上るガス・油田開発について協議中だ。まさに漁夫の利とはこのことだろうが、トランプ政権のイラン叩きが反米同盟を結束させることだけは確実だ。
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