2022年12月8日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2018年10月26日

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国を愛するがゆえの「愛されない覚悟」

 大きな反発を受けながらも、自らの信念を突き通すことができた背景には何があったのだろうか。一つは、サッチャーの生い立ちである。父親が熱心な「メソジスト派」の信者で、「個人の自由=キリスト教の真理」と考え、「働こうとしない者は、食べることもしてはならない」という聖書の一節を重んじた。こうした考え方が、「社会的扶助が、むしろ個人の道徳的責任を奪う」というサッチャーの信念につながった。

「もう一つは、国への愛です。サッチャーは、(自らの)愛する英国を救ったという点でチャーチルを非常に尊敬していました。つまり、国を愛するがゆえに、危機を克服しなければならないという強い使命感を持つことができたのだと思います」

 国を愛するがゆえに、一方で自らを支持しない人が出てきてしまうことも厭わない、つまり「愛されない覚悟」を持って自らの信念を訴え続けていったわけだ。

「驚嘆するのは、1年や2年ではなく、これを10年も続けられたことです。それは、国民の共感を呼ぶ知的真摯さがサッチャーにあったからです。掛け値のない政治だということを国民が理解し、その姿勢に信頼をおいたということでしょう。そうした人たちがサッチャーを支持する人たちの基盤になりました」

 確かに、普通の政治家であれば、あまりにも大きな反発があり、それが長期間続くということになれば、怯んでしまったり、少し譲歩してしまったりすることがありそうだ。

「そうした姿勢を見せなかったからこそ、課題の大きさを国民が理解したとも言えます。そして、国民との間で危機感の共有につながったのではないでしょうか」

「歴史を振り返ると、大国になれるかどうかの大きな別れ目は、危機に直面したときにリーダーを生み出すことができる能力があるかどうかだと思います。チャーチル、サッチャーなど英国は難しいときに優れたリーダーを生んできた国だと言えます」

 現在進行中のブレグジットについて、サッチャーであればどのように見ているのだろうか。サッチャーのように「正しい政策」と考える信念をもった政治家であれば、キャメロン前首相がしたような「国民投票」という選択はしなかったのではないだろうか。

「ブレグジットの方向性は、サッチャーの考えと一致します。欧州共同体というものに対して反感を持っていましたから。サッチャーであれば、国民投票をしなかったか。サッチャーは、ギャンブル的な政治行動をとらない人でした。そういう意味では、結果がどうなるか分からないという選択はしなかったかもしれませんね」

 先進国を中心に閉塞感がただよう。そうしたなかで起きたのが、ブレグジットであり、トランプ大統領の出現で、「ポピュリズム」が蔓延しているという見方もある。その是非は別にして、一つの評価軸となるのは、現在の政治リーダーたちが、サッチャーにはあった「愛されない覚悟」(政治信念を実現可能性を備えた政治選択に変える能力)を持てるかどうかということだ。変革期だからこそ、サッチャーという政治家から学ぶことは多い。

  
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