2024年7月16日(火)

自治体首長インタビュー

2018年10月2日

7月の西日本豪雨で甚大な被害を受けた広島県。ここから得られた教訓を次の課題として解決するという姿勢は、広島県がこれから行おうとする「人づくり」と共通するものだ。そして来たる「10月こそ広島県を訪れるべき理由」(もちろん、プロ野球クライマックスシリーズで広島カープの試合を見に行こう、ということではない)を、湯﨑広島県知事に聞いた。

湯﨑英彦氏(広島県知事):1965年広島市生まれ。東京大学法学部を卒業後、通産省に入省。1995年6月にスタンフォード大学経営学修士、資源エネルギー庁原子力産業課課長補佐、1997年に通商政策局米州課課長補佐を経て、1998年に米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるイグナイトグループに出向。2000年3月、ブロードバンド通信事業者の株式会社アッカ・ネットワークスを創業。2009年に広島県知事選挙に出馬し当選。2017年に3選を果たし現在に至る。

 7月の西日本豪雨から2カ月以上が経った。飛行機が広島空港に着陸態勢に入ると、山の頂上から谷筋に沿って土砂崩れの跡が見える。そして、広島空港から高速道路で広島市方面に向かう間、その凄まじい土砂崩れの痕跡がまさに眼前に現れる。

 4年前にも集中豪雨で大きな被害が発生した広島、それを教訓にして行ってきたのが、『広島県「みんなで減災」県民総ぐるみ運動』だった。この取り組みによって、緊急時の避難経路について事前に調べたという人が大幅に増加した(2014年13.2%から2018年に57.2%に。非常時持ち出し品を用意している人の割合が52.8%から67.4%に増加)。ただし、実際の避難となると、避難勧告や避難指示が出ても人々は動かなかった。

「避難が必要だと周知して正しい認識を持ってもらうことはできました。ただし、それが行動(避難)につながりませんでした。今回も実際に避難した人の割合は、0.74%でした。

 この意思決定の構造は何なのか。一つは、避難したときの不便さなどから、避難するコストのほうが大きいという意識が働いています(『避難コスト>残留コスト』)。そもそも、今回の災害でも人命被害発生の確率は0.005%と低く、そのことも影響しているのだろうと思います。

 これから必要なことは、人々のさらなる意識改革というよりは、構造改革だと考えています。つまり、正しい認識、情報があっても、なぜ人は動かないのか? この構造を詳細に調査します」

 湯﨑知事がこの調査によって得たいと考えているのが、「Nudge(ナッジ)」だ。ナッジとは、行動経済学などで使われる考え方で、「そっと押して注意を引いたり前進させたりする、特定の決断や行動をするようそっと説得・奨励する」というもの。正しい情報を持っていても人々は行動しないという「構造」のなかで、それを変える「ナッジ」を発見しようというわけだ。

課題解決ができる人づくり

 このように課題を掘り起こして解決策を考えていくことは、湯﨑知事が行おうとしている「人づくり」におけるコンセプトの実践でもある。

 広島県は来年4月に、全寮制中高一貫校の「広島叡智学園」を開校する。定員は1学年40人で、高校からは留学生20人を加え3分の1が留学生となる。そして、高校卒業時には国際的な大学入学資格である「国際バカロレア」の取得を目指す。なぜ、「県立校が私立校のようなことをするのか?」という声も上がるなかで知事はその意図をこう説明する。

「この20年くらいずっと言われてきたことですが、日本は『モデルのない時代』に突入しています。戦後の高度経済成長時代など、これまでベンチマークとするモデルがすでにありましたが、人口減少、超高齢化社会というのはどこにもモデルがなく、日本が初めて経験する社会です。

 このような時代においては、『指示を待つ』のではなく『課題を設定して、答えを考える力』が必要になってきます。これまでの教育のなかでは、こうした力を身につけるための仕組みがありませんでした。既存の学校の中でドラスティックに180度転換することは難しいこともあり、今回新しい学校を作って、思い切って舵を切るという選択をしたのです。

 広島叡智学園を運営していくなかで得られた知見は、他の県立学校にフィードバックすることができます。そして、何よりも重要なことは求められる人材のモデルを県が示すことで、これこそ『公』の役割です」

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