韓国の「読み方」

2018年11月2日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

文在寅政権の「反日」と見るのは的外れ

 日本では今回の判決について、文在寅政権が「反日ドライブ」をかけている一環だと考えるような見方もあるらしい。ただ、それは的外れだろう。文政権がもっとも重視する対外政策は対北政策であり、対日政策の比重は高くない。そして、対北政策を円滑に進めるためには日本との関係は悪くない方が良い。最近の対日政策に当初の慎重さが失われてきている感はあるのだが、それでも対日関係はどうでもいいということにはならない。積極的に対日関係を良くしたいという意欲までは感じられないが、それはお互い様であろう。

 一方で大法院は、この訴訟の審理を遅らせるという朴槿恵政権との裏取引があったと追及されている。見返りとして、海外の大使館に勤務する判事のポストを増やしてもらったのだという。朴政権の不正追及に熱心な現政権の意向を受けた検察の捜査攻勢に対し、裁判所側はこの事件で出された捜索令状申請の9割以上を却下するという極端な対抗策を取った。これには世論も反発して大法院は極めて苦しい立場に追い込まれ、ついに将来の大法院判事間違いなしと言われていた幹部が逮捕される事態になった。

 こうした状況を見ると、国内的な圧迫を受けた大法院が元凶である徴用工訴訟の判決を急いだのではないか。対日政策にそれほど多くの注意を払っていなかった政権は、当初は放置していたものの波紋の大きさに驚き、今さらながら対応を急いでいると考えられる。

韓国政府の立場に見られる「含み」

 前述の高官は私に、判決当日に表明される韓国政府の立場には「含み」があると語った。それを見て流れを判断してほしいというのである。

 判決後に李洛淵首相が発表した韓国政府の立場という文章は、「司法の判断を尊重する」としたうえで「判決と関連した諸事項を綿密に検討する。それを土台に国務総理が関係部署および民間の専門家たちと共に、諸般の要素を総合的に考慮して政府の対応方案を作っていく」と表明した。そして締めくくりは「政府は韓日両国関係を未来志向的に発展させていくことを希望する」という言葉だった。前段の「諸般の要素を総合的に考慮」というのが、「含み」になるのだろう。

 ただし、韓国政府が実質的な肩代わりをすることで「国内問題」として事態収拾を図るためには、特別立法などの手段が必要になる可能性が高い。実際には韓国世論の徴用工問題に対する関心は高くないが、それでも原告に同情的ではある。表立って判決を批判するのは火中の栗を拾うような行為であり、そんなことをしようとする人はほとんどいないという現実もある。文政権がそうした中でも原告や世論の説得をしきれるのかは未知数で、とても楽観視する気分にはなれない。それでも、なんとか状況をコントロールしようと考えているらしいことは認めねばならない。

 河野太郎外相は判決翌日に行われた韓国の康京和外相との電話協議で、「速やかに毅然とした対応を取ってほしい」と要求した。そして、河野氏は記者団に「日本国民、企業に不利益を及ぼさない対応を期待したい」と述べた。とりあえずは日本政府も、韓国政府の出方待ちということである。

 日韓両国政府が、日本企業に実質的被害を及ぼさないことを「落とし所」にしようとしているようにも見える。とにかく、両国とも判決確定で「終結」という態度ではない。私にとっての最高裁判決のイメージは裏切られたけれど、外交関係を破局に陥れることはできないのだから当然なのかもしれない。
 

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